ジェラルドのゲームの評価
★★★★★
見終わった後にも興奮が続いて大変面白かった映画です。
設定はシンプルでマンネリな夫婦がソフトSMでも、、、というところから事態が急展開する「ありそうで怖い」ホラーとなっています。
それだけでは、よくありそうな展開ですが、ここから過去のトラウマとの対峙、そしてそこから立ち上がっていく一人の力強い女性の姿を描くヒューマンドラマとしての一面もある作品です。
主演はカーラ・グギノ。正直今まであまり代表作が無さそうな人でしたが、手錠でつながれた彼女が生き延びるまでの人間としての強さをありのまま演じており圧巻でした。
ジェラルドのゲームのあらすじ
夫のジェラルドと妻のジェシーは夫婦関係がマンネリ化してきたことを解消するために郊外の山小屋へやってきます。
ジェラルドはこの日と特別な日にするために食事から夜の性生活まで特別な準備をしてきました。
その一つが妻との手錠プレイでした。
はじめは頑張っていたジェシーですが、途中で耐えられなくなり、ジェラルドに中止をお願いします。
いつしか口論になってしまった二人ですが、ジェラルドが服用したバイアグラの副作用で心臓発作を起こして死んでしまいます。
残されたジェシーは一人ベッドにつながれたままになってしまいます。
助けを呼ぶも山の中で誰もいません。むしろいるのは飼い主のわからない犬だけでした。
ほどなくして疲労と脱水によって意識が朦朧としてきたジェシーの目の前に突然ジェラルドの幻影が現れます。
なんとかして手錠を外そうとするジェシーですが、突然手錠が外れてしまいます。
勝ち誇った彼女でしたが、なんとそれは自分自身が見ている自分の幻影でした。
疲れ果てたジェシーは眠りに落ちますが、真夜中に目を覚ますと背の高い男が骨や小物が多数入った箱を持ってこちらを見ています。
翌朝ジェラルドの幻影に「あれは死神だ」と告げられ、混乱する彼女でした。
いつしか彼女は父親のトムに過去に性的虐待を受けたことを思い出し始めます。
父親の性的虐待に向き合う彼女はその中で「手首を切って手枷を外す」ことを思いつきます。
見事に開放された彼女は意識が朦朧とする中、戸口へ向かうと目の前に死神がこちらを見ています。彼女は結婚指輪を彼にあげ、車を走らせます。
途中の道路で事故を起こした彼女は、無事救助されるのでした。
結末ラスト
救助された彼女は、夫の財産を相続し何不自由ない生活を送ります。ジェラルドの死は事故死、見た死神は記憶喪失として処理されました。
彼女は相続した財産の一部を自分と同じように虐待を受けた子供たちの救済のために使いました。
しかし、彼女にはあの日見た死神が気がかりで仕方ありませんでした。
6か月たったある日新聞の一面に死体の一部を集める犯罪者のレイモンド・A・ジュベールの記事がでます。
まるで彼女が出会った死神のようでした。彼女は真実を確かめるために裁判所へ向かいます。
ジェシーを見た彼は、あの日の彼女のリアクションをして興奮します。彼を見たジェシーは一言「あの日見たよりも小さいわね」と言って裁判所を後にします。
ジェラルドのゲームのネタバレ解説
映画時間の103分がノンストップで終わってしまうほど夢中に見てしまったのが映画ジェラルドのゲーム。
スティーブンキング原作の作品で、映画セルで伏線を回収しないというイメージがついてしまったキングですが、、、、
本作はそのイメージを払拭する素晴らしい作品になりました。
さて、今回はそんなジェラルドのゲームの映画としての完成度を解説していきたいと思います。
まずこの映画のキーは「手枷(てかせ)」です。
ジェシーに課された2つの枷
この映画ではジェシーには2つの枷がはめられています。
一つは、ジェラルドが冷めきった彼女との仲を再燃させようと使ったベットに彼女を縛り付けた物理的な手枷。
そして、もう一つは過去に彼女の父親が彼女の幼いころに性的虐待を加えたことによる精神的な枷です。
特に2つ目の精神的な枷は彼女のその後に大きくトラウマを残すことになります。
彼女が日食の日に受けた性的虐待は短いドレススカートを履いていたことによるものですが、その影響でか、今回の彼女は長めのドレススカートを履いており、大人になっても彼女のトラウマの深さを暗示させます。
この映画はそんな2つの枷を外すジェシーの物語です。
ジェラルドの枷
ジェラルドが彼女につけた枷(手錠)はかなりの問題でした。両手につけているため動くことはできず、何しろ大男も壊すことができない代物だったからです。
この映画の前半はまさにその手枷をどうやって外すかの攻防を含んだパニック映画の面を持っています。
ちなみにこの展開は映画SAWで枷を外すのと同じ方法が取られています。
手枷を外すには痛みを伴う。薄々それしかないかなと思いながら、ジェシーは決断をします。
ちなみに本編では詳細には語られませんでしたが、ジェラルドからは「安心感」という枷を課せられていたとして結婚指輪をはめられるシーンがあります。
これは最終的にレイモンド・A・ジュベールという男に持っていかれますが、ジェラルドは結婚生活によってジェシーを家庭内に押し込めるという枷を課していたとみることもできます。
それは実際彼女が幻影のジェラルドと「あなたのために子供も持たなかった」というようなフレーズに現れています。
父親の課した枷
ジェシーが幼少のころに受けたトラウマも一筋縄ではいきません。
彼女が性的虐待を受けている事実よりも、それを「沈黙」するように強制されたことが彼女にとっての大きな枷となりました。
それにより、友人、恋人、ジェラルドに対しても常に後ろめたさを持ち、本当の自分をさらけ出すことができませんでした。
日食のあの日以来、幼いジェシーにとっては彼女の自由な時間は止まってしまったのです。
2つの枷からの脱出
鎖につながれたジェシーは死んだジェラルドの幻影と対話しながら過去のトラウマに向き合います。
特に過去に父親に課された「沈黙」という枷を外すために彼女はしゃべりだします。
父親に受けた虐待、母親が見て見ぬふりをしていたこと、そして、幼いジェシーが教えてくれる過去のこの記憶です。
手首を切ることで血を出し、手枷を抜け出すという決意をします。
皮肉にも彼女のトラウマとして思い出したくない記憶が彼女の脱出の糸口を見出してくれたのです。
過去のトラウマの克服は過去の事実と向き合うことであり、それがそのまま現実での脱出の糸口だったのです。
ジェラルドのゲームの結末ラスト解説
この映画の魅力的なところは山小屋からの脱出からその先にもう一つ山があることです。
それは彼女自身が過去のトラウマから脱出するために新たなトラウマを持ってしまったことです。
ジェシーの記憶障害
ジェシーのトラウマは彼女が拘束されていた時に見た死神です。
その死神は背が大きく、顔が人間のものとは思えないほど膨張していました。
過去に向き合い、父親が課した「沈黙」を破り、同じような体験をしている子供たちに真実を語ることが彼女を徐々に父親からの精神的な枷から解放へ向かわせます。
結婚指輪がない
あの夜の自分やジェラルド、そして、死神が幻想だったら全て解決でしたが、どうしても解決できない問題がありました。
それは、死神に渡した結婚指輪が警察の捜査でも見つからなかったことです。
彼女にとって死神が実在し、動き始めた生きている時間が、また彼によって止められてしまうことを恐れました。
これは前進でもあり、後退でもあります。
おそらく幼少期の虐待から彼女自身は何度も自殺を考えたのでしょう。
それは手首を切るときに「手首は神経が少ないから切ってもダメージが少ない」「なぜそんなことを知ってるんだ?」というジェラルドとの会話から彼女がリストカットについての知識があることからもわかります。
逆に言えば、トラウマを克服し、生きていることに希望を持った瞬間に、死が怖くなったことを表しています。
死神との対峙
このトラウマも結局真実に目を向けることで解決するしかありません。
つまり、彼女は死神などではなく、レイモンド・A・ジュベールという一人の実在する男だったということです。
昔の彼女ではその事実にも目を向けられなかったでしょう。
最後に
スティーブンキングの作品の中で1、2を争う印象に残る作品になりました。
単なるホラーだけでない、多くの要素を含んだ作品としておすすめできる作品です。
映画の裏側には親からの虐待に立ち向かう人間としての力強さがメッセージとして隠されている力の出る作品です。