ザ・ギフトの評価
★★★★☆
シンプルな設定ながら良質なホラー映画です。
ある日突然知り合った男からプレゼントが贈られてきて、その裏にはまだ知らない謎が待っている、そんな誰もが体験するであろう人間の怖さを感じることができます。
もしかしたら、こんなことされたら、ありえないけど、などなど人間の想像する力が逆に恐怖を引き出す原動力になる、そんな映画です。
ザ ギフトのあらすじ
シカゴから引っ越してきたサイモンとロビンは買い物中に、高校時代の友人ゴードに出合います。
ゴードはサイモンとの再会を喜び、度々訪れてはプレゼントを置いていきました。
サイモンは高校時代あまりゴードと仲が良かったわけではないのでプレゼントを多くくれる彼に不信感をいだき始めます。
ロビンもサイモンとゴードの関係を疑い始め、彼らの過去を調べ始めました。
すると、実はゴードは過去にサイモンに嘘の事件をでっちあげられてイジメにあっていることがわかります。
ロビンはサイモンに彼に謝るように言いますが、サイモンは言うことを聞きませんでした。
それどころか、ゴードを痛めつけて二度と家族に近づくなと脅しをかけていました。
ゴードは「せっかくチャンスをあげたのに」と言ってそれ以来二人に近づくことはありませんでした。
結末ラスト
月日が経ちロビンは妊娠し、子供を産みます。
幸せそうな二人ですが、サイモンのところに「ギフト」と書かれた贈り物が届けられます。その中にはベビー用品と3つの贈り物が入っていました。
贈り物に激怒したサイモンは慌てて病院に行きます。
病院でゴードを見かけたサイモンは慌てて彼を追いかけますが、驚愕の真実を告げられます。
ザ・ギフトのネタバレ解説・感想
ミステリアスホラーの分類の本作は、アメリカお得意の悪霊や化け物ではなく、人間の執念によるリベンジ系のホラーに仕上がっています。
一言で言えば、昔いじめられてた子が相手に復讐をする物語です。
ですが、その復讐は相手を殺したり暴力を振るったりという物理的な仕返しは一切含まない、まるで真綿で首を絞めるようにジリジリと相手を苦しめるものでした。
作品理解のキーワード
ラスト電話でゴードがサイモンに言っていたことがヒントです。
「嘘をつく人間は他の人間の言うことを信じない」
つまりサイモンの「嘘つき」を逆手にとって「疑心暗鬼」を植え付けることです。
作品のいたるところで「疑心暗鬼」の出てきます。
サイモンは妻ロビンに何かあったのではないかと「疑心暗鬼」になります。
ロビンはサイモンが嘘ばかりなので「疑心暗鬼」になります。
この作品では出演しているすべてのひとの関係が「疑心暗鬼」によって崩壊していく作品です。
ギフトの本当の意味
作品の題名にもなっている「ギフト」。
はじめはワインや鯉など多くのものを送ってくることを指しているのかと思いきや、ゴードの復讐の「ギフト」はラストの3つの贈り物でした。その3つとはこれまでの既成品ではなく、味気ない紙に包まれていました。
①合鍵
②音声テープ
③ビデオテープ
①の合鍵はサイモンの家の鍵です。
「いつでも侵入できた」というメッセージに他なりません。
②の音声テープはサイモンがゴードの家(実際は違いましたが)に言ったときのロビンとの会話を盗聴したものです。つまりゴードが盗聴についての技術と知識を持っていることを示しています。
実はこの①の合鍵と②の盗聴のテープはセットになっていて、2つ合わせると「今もお前の家、車、オフィスをいつでも盗聴できる」というメッセージになり、今後サイモンは自分が「盗聴されているかもしれない」という疑念を常に抱くことになります。
③のビデオテープはそのままですが、ロビンを気絶させた場面が映っています。
作品の結末ラストのつながる大事な描写で、「ロビンがゴードにレ○プされたかもしれない」という疑心暗鬼を生みます。
結末ラストの解釈
ラストでゴードがサイモンに「赤ちゃんの目を見ればわかる」と言います。
サイモンはすがるような思いでロビンのところへ走っていき赤ちゃんの目を覗き込みます。
赤ちゃんもサイモンを覗き込み、時間切れ、カーテンが閉じます。
さて、ゴードはロビンに何かしていたでしょうか?
答は「わからない」のです。
私も親なのでわかりますが、実は赤ちゃんというのは生まれた後は猿顔で、どの赤ちゃんも似た顔をしています。
自分に似ていると思えば似ているし、似ていないと思えば似ていない、それが赤ちゃんや子供の顔なのです。
子供は大きくなっていくにつれて親に似ていくものです。サイモンが答えを見つけるにはおそらく10年以上はかかる=10年以上「自分の子供ではないかも」という疑心暗鬼に苦しむことになるものと思われます。
実はここには「自分自身の目で見たもの」も信じられなくするというサイモンがサイモンに対する疑心暗鬼も含んでいるのです。
もう一歩進んで
人によっては{子供をDNA鑑定}すればいいじゃん!と思う人もいるかもしれません。
しかし、職を失ってしまったサイモンは今まさに妻ロビンも失おうとしています。
そんな微妙な関係の妻に「お前はゴードの子供を産んだかもしれないからDNA鑑定しよう」など到底言えるわけがありません。
よしんば言えたとしても、「妻が性的暴力を受けたかもしれない」という疑念だけは拭い去れません。
ザ・ギフトの謎
さて、本作で疑心を植え付けられてしまった私たち視聴者は、今回の一連の黒幕はゴードだと思い込んでいますが、全てそうでしょうか。
ゴードが行った罪はゴード自身が告白していますが、謎はまだ残っています。
飼い犬を誘拐した犯人は誰でしょうか、鯉を殺したのは誰でしょうか。
私たちはゴードだと思っているかもしれませんが、サイモンがやったという可能性もあります。
サイモンはゴードの存在にいち早く気づき、探偵を雇い身元調査をするなど早い段階から彼を疑い、彼を遠ざけることを考えていました。
嘘つきの彼にとって虚偽の誘拐をでっちあげることはわけもないでしょう。
犬を誘拐し、鯉を殺すことで「ゴードがやばいやつだ」ということをロビンに知らせたかったとも考えられます。
ただ、これは作中警察が言っていた通り「証拠が無ければ何もできない」です。
ザ・ギフトの最後に
最後までサイモンのクズっぷりが光る映画でした。
ビジネスでも競争相手を卑怯な手で落とし入れるとは、脚本家に脱帽です。
ゴードを演じたジョエル・エドガートンが監督も兼任する本作は見事にゴードの怖さが引き立つ名作の1本だと言えるでしょう。