アンブレイカブルの評価
★★★★★
刺さる人には刺さる映画、刺さらない人には刺さらない映画です。
正義とは何か、善とは何か、悪とは何かという人間の危うさと可能性を感じる作品として大変面白く見ることができました。
正義のヒーローと言えばマーベルヒーローやDCヒーローのような派手なヒーローを思い浮かべるかもしれませんが、すべてのヒーローがはじめからあんなに堂々と世界を救っていたわけではありません。
本作アンブレイカブルでは人間の葛藤とヒーローという最近のマーベルやダークナイト(バットマン)に代表されるような一歩踏み込んだ精神世界の先駆けの作品としてぜひ見ていただきたい作品です。
アンブレイカブルのあらすじ
列車に乗っていたデヴィットは突然起きた列車事故の唯一の生存者にして、無傷ということでマスコミの注目を浴びていました。
彼はかつてはアメフトの名選手で今は警備員をしている冴えない中年男だった。
ある日がヒーローコミックのコレクターであるイライジャから手紙が届き、デヴィッドは会いにいくと、彼は自身骨折しやすい体質である骨形成不全症という難病を持って生まれてきた障害者であることを打ち明けられます。
彼はこれまで自分の弱弱しい運命からコミックにはまっていき、いつしか自分の真逆の存在である、ケガをしないような類の人種がいるのではないかと思い始めていました。
イライジャはデヴィッドこそ自分が探し求めてきた超人であると言いましたが、デヴィッドは自らの能力を隠し、隠遁生活に近い生活を送っていました。
しかし、デヴィッドは不死身の肉体に加えて、相手の記憶を読むことができることや、常人よりも強い力を持っていることを認識し、自らが他人とは違うことを意識しはじめます。
妻も息子デヴィッドに本来の姿を隠して距離を置かれることを嫌がっていました。
意を決したデヴィットは自らの能力を使って未解決の未成年監禁事件を解決します。
翌日の新聞にはデヴィットの活躍が「正体不明のヒーロー」として出ていました。
アンブレイカブルのラスト結末
決意を固めたデヴィットはイライジャの個展へ行き、自ら進むべき道を教えてくれたイライジャに感謝の意を伝えようとしました。
「どうやら握手の時が来た」
イライジャはデヴィットに握手を求めるとイライジャの記憶がデヴィットに流れてきます。
それはイライジャがヒーローを探すために、電車の脱線事故に関与したり、ホテルの火災に関与している記憶でした。
メディアに「Mr.ガラス」と名付けられたイライジャはその後、ディヴィッドの通報により逮捕されることになりました。
アンブレイカブルの魅力を解説
一見してわかりずらい作品ですが、その世界観を知るとやみつきになる作品だと思います。
アンブレイカブルとはun-brake-able=壊れない人、という意味でありダイハードのブルースウィリスこそふさわしい役柄と言えます。
私個人は好きな作品ですので今回はその魅力を解説していければと思います。
ヒーローと一般人の境目
この作品の一つの魅力は一般人として暮らすデヴィッドの心の変化にあります。
特殊な能力を持っていることは「人より秀でている」という面と「人と違う」という面を持っています。前者はポジティブにとらえた場合、後者はネガティブにとらえた場合です。
デヴィッドは何十年も自らの不死身の能力をネガティブにとらえていました。おそらく自らを「化け物」としてコンプレックスに感じていたことでしょう。
冒頭列車事故で無傷だった自分を「気味の悪い目」や「疑い」のまなざしで見る周りの人たち。これが彼が何十年も受けてきた「差別」でした。
イライジャはいち早く彼の存在に気づき、執拗なまで彼に寄り添い、デヴィッドはヒーローとしての道を進むことになります。
作品を通してデヴィッドに訪れた変化は能力の開花でなく、意識の変化です。
自らの能力を隠すのか、使うのか、その生きる道をイライジャは気づかせてくれました。
これは私たち自身にも言えることで、自分の個性や特技というのをどれだけ人のために使えるかは「自分がどう使うか」にかかっています。
一歩を踏み出すことで誰かの役に立てるかもしれない、そんなメッセージを秘めています。
イライジャは善か悪か
特殊な能力を持つ人たちはその能力を使う義務と責任があります。
イライジャもある意味の特殊能力を持っていました。それは”骨折しやすい”体質ではなく、”自分の真逆の能力を持つ人間を感じる”力と言えると思います。
ただし、イライジャは多くの犠牲を他人に強いてきました。
デヴィッドを探すために列車事故やホテルの家事など多くの人間の命を犠牲にして少しづつ彼を追い込んでいったのです。
イライジャはコミックに出てくるようなスーパーヒーローが必要だと本気で思っていました。彼の使命は能力がある人を世の表舞台に出すことだとすれば、彼がやってきたことは正当化されるのでしょうか。
列車事故で何百人が死んだとしても、デヴィットが自身の道を進むことでこれから何千という人が救われるのであればその価値があるとデヴィットは考えたのです。
善の裏には悪がある。ヒーローがいるから、その真逆には悪がいる。この映画では常に善と悪の真逆の存在が常に対比的に描かれます。
ラストの握手
イライジャはラストで自らデヴィットと握手を交わします。
当然イライジャはデヴィットのサイコメトリー能力(相手に触れて、相手の記憶を読み取る能力)を知っていますので、すべてをデヴィットに打ち明けるためにわざわざ握手をしたものと思います。
それは自らが罪人であることを覚悟の上で、デヴィットにすべてを知っていてほしかったと考えることが妥当でしょう。
もちろんイライジャは一般的にはテロリストの類だと言えますが、彼の行いは自らに課せられた「デヴィットを世に送り出す」という使命によるもので善悪を超越した存在です。
個人的にはミスターガラスとして甘んじて悪に染まった彼は大好きです。
映画スプリットに向けて
本作はM・シャマラン監督が作る作品の映画スプリットや2019年公開の新作「グラス」へ続く前日譚です。
あまりネタバレしないように書いていくと、世界観を統一し、スプリットでは今度は特殊能力を持つ人間が「悪」に目覚める過程を描きます。
本作アンブレイカブルは「善」に目覚める過程を描いており、続編のグラスでは善に目覚めたデヴィットとスプリットで目覚めたモンスターがぶつかるような作品もおもしろいかもしれません。
最後に
この映画は3部作の1作目ですのでぜひ映画スプリットやミスターガラスもぜひ見てほしいです。