アンセイン 〜狂気の真実〜の評価
★★★★☆
スリラーとしてかなりよくできた作品でした。
何が正気で何が正気でないのか、途中見ていて迷う部分もありましたが、起承転結もしっかりしていて、スリラーとして主人公が追い詰められていくシーンもとても印象的でした。
派手な作品ではありませんが、しっかりと構想が練られていて一気に見れてしまう作品です。
アンセイン 〜狂気の真実〜のあらすじ
ソーヤーは優秀な女性であったが、ここ数年ストーカーの被害に悩まされていました。
父親が死んでからというもの母親のアンジェラとも疎遠になってしまっていた彼女は相談できる相手もいなく、転職し一人遠くの街に引っ越してストーカーから逃げていました。
新しい職場では順調に仕事も進めていました。
ボーイフレンドも欲しいと思っていましたが、出会い系アプリで出会った男性と深い関係になろうとすると、どうしても男性への恐怖心が出てしまうのでした。(ストーカー被害による心的外傷)
ソーヤーはストーカー被害によるカウンセリングを受けるためにハイランド・クリーク行動センターという病院を訪れます。
しかし、カウンセリングの結果彼女は「自殺の恐れがある」と診断されてしまい、精神科に強制的に入院させられることとなってしまいます。
自分は異常がないと訴える彼女でしたが、病院側は何かと理由を付けて彼女の入院期間を延長してしまいます。
しかも彼女の入院している病院にストーカーであるデヴィッドが看護師として雇われてしまいました。
彼は身分を偽っており、病院関係者からもとても好かれていました。
ソーヤーは病院の職員に身の危険を訴えましたが、誰も取り合ってくれませんでした。
デヴィッドは徐々に彼女を追い詰めていき、耐えられなくなった彼女はネイトの隠し持っていた携帯電話を使って母親のアンジェラに電話し、助けを求めます。
アンジェラは必死に娘を助けようと警察や弁護士を回りましたが、いい手立てがありませんでした。
一方でデヴィッドはソーヤーを退院させたくないのでアンジェラのいるホテルを訪れ彼女を殺害します。
母親とも連絡が取れなくなり、苛立つソーヤーでしたが、ネイトが彼女を慰めました。
しかし、デヴィットはソーヤーと仲良くするネイトを許せず、彼を病院の地下に監禁し、暴行したうえで殺してしまいます。
アンセイン 〜狂気の真実〜のラスト結末
デヴィットの策略により、隔離病棟に入ることになったソーヤーですがなんとか脱出するためにデヴィットにヴァイオレットを襲わせました。
ソーヤーの狙いはヴァイオレットの持っていた手製の刃物でした。それを使い、デヴィットを襲い、怯んだすきに病院を逃げ出します。
しかし、途中で捕まってしまった彼女はデヴィットの車のトランクに監禁されます。
気が付いた彼女はトランクから逃げ出し森を逃げます。
一度はデヴィットにつかまってしまった彼女ですが、隙をついて彼を殺すことに成功します。
同じころ、ネイトの調査が世の中に出回り警察が病院に介入し、院長が逮捕されました。
何か月かたち、彼女は仕事に復帰、昇進をしてレストランで食事をしていました。
ふと、向こうの席にデヴィットがいることに気づき愕然とします。
ナイフを手に持ち、その男に近づくと直前で彼ではないことに気づきます。
彼女は全く関係のない男性がデヴィットに見えてしまったことにとても不安を感じていました。
アンセイン 〜狂気の真実〜のネタバレ解説・考察
ここではアンセイン 〜狂気の真実〜の内容を考察していきます。
なぜ入院させられたか
病院は経営を成り立たせるために常に患者を受け入れていかなければなりません。
特に精神科のように患者もあまり入院したがらないような病院では嘘の病気をでっちあげ、診断することで強制的に入院させることで儲けているのでした。
病院側は何かと理由をつけて入院期間を延長させます。
それは医療保険が下りる限界まで入院期間を延長させるのです。
デヴィッドはなぜ病院にいたか
ソーヤーのストーカーであるデヴィッド・ストラインはジョージ・ショーという名前で病院で働いていました。
裁判所命令でデヴィッドはソーヤーには近づけません。
はじめソーヤーは彼が改名したと思っていたようですが、実際はジョージ・ショーという別の人物を殺害して成りすましていたのです。
そのため、病院での経歴チェックでも特に異常が見つからなかったのです。
ネイトの正体は
ソーヤーの理解者であり、あまり精神病患者に見えないネイト。
表向きは中毒患者ということでしたが、彼は不必要に患者を入院させているという噂を調査するための潜入記者でした。
そのため、携帯を隠し持っていたり、完全な健常者でした。
アンセイン(unsane)の意味
「unsane(アンセイン)」という単語は存在しません。「sane=正気」「insane=狂っている、狂気」という単語がありますが、unsaneというのは完全な造語です。
特に作中も出てきていないのでこれは個々人が想像するしかありません。
「sane」が正気で「un」は当然「~でない」という意味がありますので「unsane(アンセイン)」とは「正気ではない」という意味でしょう。
しかしinsaneではないので、「正気と狂気の間」ぐらいの意味が妥当だと思います。
今回はそんな「正気ではない」という観点がいくつも出てきます
まず正気と狂気に明確な境目はありません。
ある日自分が見ているものが他人と違う感性になったら「正気ではない」と思われるのです。
ソーヤーははじめは病院側の策略により精神科に入院になりましたが、どうも途中のソーヤーのキれやすい言動を見ていると「もしかして本当に正気じゃないかも」と見ている誰もが思ったはずです。
そんな正気でも狂気でもない不安定な状態が続くこのソーヤーの状態をunsaneと表現したのかもしれません。
また、出てくる誰もが正気とは思えません。
病院側の強制的に精神科に入院させることもおかしいですし、自信満々の院長、病的に仕事に誇りを持っている看護師、そんな彼らはアメリカでも実在する社会問題なんだとか。そんな「insane(狂ったこと)」なことを「sane(正気)」でやっている彼らこそ「unsane(アンセイン)」として揶揄しているのかもしれません。
また、ラストではソーヤー自身が普通の男性を見てもデヴィットに見えてしまっています。通常の仕事ができている彼女ですが、デヴィットに関することだけは正気を失っているといっていいでしょう。
はじめは正気だった彼女が病院に入院し、デヴィットと対面することで徐々に正気を失っていく様をunsaneとして表現したのかもしれません。
アンセイン 〜狂気の真実〜のネタバレ感想
元々はiPhoneで全編撮影された作品として話題になっていた本作。
確かに固定アングルでの撮影が多かったので、見ていて良くも悪くも「どこを注目してみればいいの?」と思ってしまいます。
監督自身もそれは狙っているようでインタビューの中で「視聴者が自分で注目すべき部分を見るべき」というスティーブン・ソダーバーグらしいこだわりが見える作品です。
やっぱりカメラの質ではなく、腕なんだなと思わせる作品です。
しっかりとカメラのアングルを考えていけば、画質や性能で劣るiPhoneでもこんな作品が取れるですね。
良質なスリラー
正常な人がそもそも精神科の中に入れられるだけでもハラハラするのに、見ていてソーヤーも「実は頭がおかしいのでは?」と染まっていく感じもとてもドキドキします。
さらにそこにデヴィットという最強に頭がおかしいストーカーが突撃してくるのはもうどうなっちゃうの?!と目が離せません。
デヴィット役のジョシュア・レナードも「実はまともなのでは?」と思わせるシーンもありながら、最終的にはクズっぷりを全開で平気で人を殺しまくるという始末なので手に負えません。彼は本当にサイコパスやストーカーの役がうまいです。
ちなみに最近私が彼を見たのはアメリカドラマ「スコーピオン」の中で天才変態サイコパスを演じていた姿です。スリラーでは欠かせない存在になってきました。
本当の恐怖
そして本当に怖いのは「誰にでも起こりうること」だということ。
ある日なにげなく受けた診察やカウンセリングで「君は正気ではない」と診断されてしまい、突然精神科に入院させられてしまう。それは自分の意志ではなく、周りの悪意ある狂気であると言う点です。
自分が正気であるかどうかを決めるには他人(医者)なんですね。
最後に
総じてよくできた作品です。
特に「iPhoneで撮った作品」という意識で見てみると「よくできてるな~」と感心してしまいます。
スリラーが好きな方にはぜひ一度見てもらいたい作品です。