チェインドの評価
★★★★☆
哀しくつらい作品であることに疑いの余地はありません。
あらすじを一言で言えば、殺人鬼に監禁された少年の9年間の地獄の日々を描いた作品です。
少年にとって何が地獄だったのでしょうか。
監禁されたことか、監禁した男に育てられたことか、はたまたラストに待つ過酷な現実か。
明らかに見る人を試す作品です。
彼の痛みがわかる人であればあるほどこの作品に感銘を受けること間違いないでしょう。
チェインドのあらすじ
ティムは犬が欲しくてたまらない9歳。ホラー映画が好きで、その日もママと一緒にホラー映画を見に行きました。
その帰りにタクシーを拾います。
タクシーは降りるべき場所を通り過ぎてしまい、そのまま見知らぬ土地へ行ってしまいます。
ティムの母親はあわてて止めますが、タクシーは止まらず一見の家に入ると母親は乱暴されて、殺されてしまいます。
ティムも殺されるかと思いましたが、運転手のボブは彼は殺さず自分の小間使いとして生かします。
彼はティムの足に鎖をつなぎ、ラビットというあだ名をつけました。また、色々ルールを作り、従わせました。
例えば、家を掃除すること、朝食を用意すること、食べ物はボブの食べ残しのみ、ボブが女を連れて帰ったら10秒以内にあける。
殺した女の免許証やお金をとっておく、新聞の行方不明記事をスクラップする、など細かいルールが決まっていました。
何度か逃げようとするティムですが、ボブのほうが上手で捕まってしまいます。
そして、いつしか9年の月日が経ちます。
ティムもだいぶ大人になります。
ある日ボブがティムも勉強しないといけないと言います。
特に人体について学び、解剖などを勉強するように言われます。
ティムは本を読み人体について勉強することにしました。
ある日ボブが連れ帰った女がボブに反撃し逃げ出します。
女は出口を探しますがそんなものは当然ありませんので、すぐに女は殺されます。
ティムは呆然としていました。隙もあったので逃げるチャンスもありましたが、逃げませんでした
また、むしろボブの傷の縫合もうまくこなしました。
彼らはよくゲームをします。
殺した女の免許証を使って女のあてっこをするのです。
ティムはそのゲームが嫌でしかたありませんでした。
ボブはよく夜に夢でうなされていました。親に虐待されていたころの話です。
ボブはそのうちにティムに女を抱かせようとします。写真集を持ち出し、ティムに女を選ばせようとしますが、断ります。
仕方なく、ボブはティムと同じくらいの大学生の女の子を誘拐してきます。
ティムに性行為とそのあとに殺人を要求してきます。
部屋にティムと女の子二人になります。
中々動こうとしないティムに女性は自己紹介をはじめます。
名前はアンジー。
彼女は殺されるくらいなら、性行為に及んでもいいとティムを説得しはじめます。
しかし、ティムは最後に殺すことに動揺していました。
そのうちにボブがしびれをきらして部屋に入ってきます。
ティムは仕方なく彼女を持っていたナイフで刺しました。
その夜彼はアンジーの遺体を捨てました。
ボブは満足そうに、次の日の夜にティムのためにスーツを用意し、ティムようの椅子を用意しました。
はじめて、ティムを外に連れ出し、女の吟味をさせようとしました。
タクシーに乗り込んだ二人ですが、中々ティムが女性を選びません。
ふと、ボブが見るとタクシーの横に「HELP」という文字が血で書かれていることに気づきます。
ティムが助けを呼べるように仕組んだのです。
ボブは激怒し、ティムを殴ります。
そして、アンジーも殺していないことを見抜きました。
ボブは急いでアンジーの死体があるであろう地下に行きます。
するとアンジーは隠し持っていたナイフで反撃、ティムも加わり、ボブを殺すことに成功しました。
チェインドの結末ラスト
ティムはボブの死体を埋めてある場所へ向かいました。
それは父親の家です。
彼は再婚して子供までいました。
ティムはそこで向かった先で衝撃の告白をします。
ボブの家で、父親が母親の殺害をボブに依頼する手紙を見つけたというのです。
しかも父親はボブの兄だというのです。
ボブは激昂し、ティムを殴りつけ、止めに入った再婚妻も殴りました。
ティムは殴られる母親を見て、あの日の光景を思い出します。ティムは無我夢中で父親を殴り殺しました。
再婚した母親は当たりを散らかすとティムに逃げるように言います。
ボブの家で途方にくれるティムは静かにタクシーのエンジンをかけました。
チェインドのネタバレ解説
ストレートな部分の作品が多かったものと思われますが、少し気づいたところを解説していきます。あくまで個人の推察も入っていますのであしからず。
なぜボブはティムを殺さなかった?
作中特に触れられていませんでしたが、推察するにボブも昔は虐待をする親をもったつらい過去があります。
ティムも実の親に殺される依頼をされたかわいそうな男の子です。
そのため、ボブもティムと重なるところがあり、生かしておいたものと考えられます。
ボブのトラウマは何か
これも作中の微妙なシーンでしかありませんが、おそらくこのシーンかと思います。
この女性に性的暴力をするように父親から言われるボブですが、最終的に拒否されてしまいます。
その後この女性が父親のことを「あなた」と呼ぶことから、ボブは父親に命令されて、母親に性的な暴力を強制されたと考えられます。
こりゃトラウマになりますわ。
ボブとティムがやっているゲームは何か
これはボブが課したルールである運転免許を箱に入れておく、ということを思い出すと運転免許をカードゲームとして遊んでいました。
相手が選んだ免許証の被害者に関して知っていることを列挙します。
年齢、住所から体重まで知っていることを多く言ったほうの勝ちです。
悪趣味極まりなく、もちろんボブの圧勝です。
チェインドの感想
救いのない話にまた一つ、悲しい話が私の心に刻まれました。
日本でも八日目の蝉のように、自分と関係ない親に育てられるようなお話がありますが、もはやそのレベルではありません。
自分の実の父親は自分の殺害を依頼し、母親は殺され、叔父は殺人鬼で自分までも殺人鬼に仕立て上げようとする始末。
彼がいる世界はボブによって物理的にも精神的にも支配された世界Chainedな世界なのです。
自由を奪われ、外に出ることもできない、人間の食べ残しを与えられるペットのような生活で人はどんどん正常な感覚を失っていきます。
ラビットというあだ名も、人の名前という尊厳を奪うのに一役も二役も買っています。
その後彼自身も自分のことをラビットと呼んでいますし、別の人間であったことを忘れます。
ラビットであることを自ら言わせることによって、ペットとして飼われることを自然に見つけさせたのでしょう。
ラストのラストはどう見るか
彼が9年間理性を保ち続け、最後の最後まで「人を殺さない」という選択肢を貫きとおしてきましたが、あの日、ボブと父親という二人の肉親を1日で手にかけた彼はどうなってしまったのでしょうか。
人を殺さない、という最後の砦を1日で、しかも肉親で破ってしまった彼は、無意識にタクシーのエンジンをかけます。
彼にとって9年という月日は失ったものが多すぎました。
なんだかんだボブに依存して過ごしてきた彼にはそれ以外の生き方を知りません。
だから彼ができることはただ、タクシーのエンジンをかけることだけでした。
その結果はいいものか悪いものか最後まで描かれていませんが、願わくばあのまま殺人鬼とならないでほしいと思います。
最後に
残酷な描写が少なく、怖いという感覚も少ないのでホラーというよりは悲しいお話というほうがあっていると思います。
実はボブがティムを殺さなかったのは、歪んだ人間の歪んだ愛という見方もあります。
そういう見方で見ると、実はティムはボブから一定の愛を受け取っていたという風に2回目は見ることもできます。
何にしろ悲しいお話であることは間違いありません。