映画RAWのあらすじ
姉と同じ獣医科大学に入学したジュスティーヌは大学で満足できない日々が続いていた。
先輩による新入生歓迎の嫌がらせや先生のいじめなど彼女にとってはつらいことばかりであった。
新入生歓迎の儀式は日に日にハードになっていき、全身に動物の血を浴びせられ、うさぎの生の腎臓を強制的に食べさせられることとなる。
翌日、全身に不気味な発疹が出てかゆくてしょうがない彼女は医者にアレルギーと診断される。
同時に彼女は体質が変わっていくのを感じ、これまでのベジタリアンから打って変わって肉が食べたくてしょうがなくなる。
その折、姉と喧嘩をしたタイミングで誤ってお姉さんの指をハサミで切断してしまう。
彼女は転がった指を見ていてもたってもいられなくなり、その指を口に運ぶのだった。
映画RAWの評価
★★★★★
衝撃的な作品であることに間違いありません。
スプラッタのような激しい描写は少ないですが、うちに秘める葛藤が見る人を釘付けにします。
人によって好みが違うのかな~でもフランス映画が好きな人は絶対気に入る作品だと思います。
映画RAWの見どころ
若きジュスティーヌは優等生で姉と一緒の獣医学部に入学します。
新入生歓迎の儀式でウサギの内臓を食べたことで体質が激変してしまい、いつしか人間の肉を食べたくなってしまいます。
若きジュスティーヌが肉欲への欲望を抑えながら、学生生活を進めていく、そんなお話です。
本作はそんな思春期のどうにもならない不満や不安を見事に描いている作品です。
ジュスティーヌにとっては入学してから不本意なことばかりです。
まず入学式では上級生によるしごきによって服装、歩き方、私物を捨てられ、はたまた血をかけられ、日大もびっくりの超体育会なのです。
実はこの嫌がらせがかなり陰険で本作をより不快に魅力的にしている描写の一つです。
また、成績優秀な彼女をねたむ先生もいて、何かといちゃもんをつけます。こいつが本当にむかつくんですよね。
間違いをわざわざ指摘したり、カンニングの疑いをかけたり、面と向かって嫌味を言われることもあります。
真面目に勉強をしたいと思っている彼女にとって毎日パーティのような大学生活はかなりの苦痛だったことでしょう。
外部環境がこんな状態であるにも関わらず、輪をかけて彼女の体質もどんどん変わっていきます。
はじめは肉を欲しがるようになり、生まれて初めてケバブを食べてみます。
その食欲は止まることを知らずに次第に肉への乾きが出るようになります。
抑えようと思ってもそう簡単に止まるものではありません。
ある時姉の指が切断された時に、ふと床に転がった指を食べてしまいます。
本作最大の見せ場であり、ジュスティーヌが完全に覚醒する場面です。
まるではじめてチョコレートを食べる子供のように指にむしゃぶりつきます。
素晴らしい演技で、これが指でなければ、お茶漬けのCMに使いたいぐらいです。
もはやジュスティーヌは止まりません。
サッカーをしている同僚を見ても捕食しか頭に浮かばないのです。
これまでは理性でなんとか抑えていましたが、一度味を覚えてしまうと、ブレーキが効きません。
皮肉なことにお父さん自身が飼い犬を殺す決断をしていたときに言っていました。
「一度人間の味を覚えてしまった動物は危険だ」
彼女の暴走は止められず、ついに最悪の結末を招きます。
同居人であり、友人を殺してしまったのです。
しかし、よく見ると背中に鋭利なもので刺された跡があり、お姉さんが殺したものと発覚します。
隣のキッチンで口の周りを血だらけにして、茫然自失している姉を発見したジュスティーヌは彼女の頭に棒を押し当て殺すかどうか迷います。
「一度人間の味を覚えてしまった動物は危険だ」
お父さんの言葉が頭の中を回ったことでしょう。
犬は殺処分されてしまいましたが、人間の味を覚えてしまった人間はどうすればいいのでしょうか?
人を殺してしまったとはいえ、唯一の肉親であり何より自分の苦しみがわかる唯一の相手であることから彼女は姉を殺すことはできませんでした。
ここら辺の葛藤も胸に刺さるものがあります。
ラスト結末のオチ
最終的にお姉さんが警察に捕まってしまい家族で面会に行きます。
帰ってきて、食事をしていると相変わらずお母さんは残さず食べるように小言を言ってきますがジュスティーヌは上の空です。
お姉ちゃんと誰にも打ち明けられない秘密を胸に秘めているジュスティーヌは、親に相談できるわけわけもなく、これからどうしていいかとても不安そうです。
ふとお父さんと二人になり、話しかけてきます。
自分なりの道を見つけてほしい
おもむろにお父さんがシャツのボタンをはずして胸を見せると噛み付かれたような跡が多数ありました。
ジュスティーヌのお母さんもカニバリズムの体質があったのです。
RAWの疑問を解説
なぜそんな特異体質に
ジュスティーヌのお母さんがカニバリズムの体質があり、それが遺伝でお姉さんとジュスティーヌに移ったものと考えられます。
ただし、生まれてすぐ発症するものではなく、あるトリガーによって発症するもののようです。
なぜベジタリアンなのか
ジュスティーヌのお母さんも自分の体質を理解しており、肉を食べるとカニバリズムの体質が表面化することを理解していました。
そのため、娘たちに肉に対してアレルギーがあると嘘を言って、カニバリズムの体質を表面に出させないように幼少期からさせていたと考えられます。
カニバが目覚めるきっかけは
ウサギの腎臓を食べたことによるものです。
それはお姉さんもおそらく同様で、その後化粧台にジュスティーヌが処方されたと見えるアレルギーの塗り薬があったことから、同じような経緯で発症したものと考えられます。
また、お母さんも同じ獣医学校の出身であることから、お母さんも同様の経緯で発症した可能性があります。
なぜ獣医学校か?
これも名言はありませんが、ジュスティーヌの父と母が獣医学校を出ているためその跡継ぎ、もしくはカニバリズムの特異体質の耐性をつけるために入れたものと考えられます。
ジュスティーヌの母は結果的に自分の体質に理解を示してくれる父親という存在を見つけましたが、獣医という生き物の生き方に寛容に接する存在こそが彼女には必要だったのかもしれません。
冒頭の猿との性交渉はエイズの元になるかというお話の中で、ジュスティーヌだけが猿と人間は平等という考えこそ獣医の基礎にあるという議論を展開します。
確かに人間だけを捕食の対象にしない人間は、どうも人間を動物の頂点に君臨する存在と考え、他の動物を見下しているのかもしれません。
獣医だけが人間と獣を平等に扱う数少ない職業なのかもしれません。
冒頭の車事故は何なのか
姉のアレックスが起こした事故であることが考えられます。
アレックスはジュスティーヌと違い、自らのカニバリズム体質を受け入れており、自ら当たりやのように車に当たりにいき、事故を演出して、事故で死んだ人間を食べることをしていました。
結果的にジュスティーヌは受け入れませんでしたがお姉さんは定期的に車を襲っていた可能性があります。
多くの布石
広げた風呂敷をしっかり回収できている作品です。
例えばベジタリアンにこだわり、少しでも肉が入ってると店員を怒鳴る母は最終的にカニバリズム発動のトリガーを想定しての話でした。
また、見ていて不思議だったのは、病院で姉が「指はジュスティーヌが食べ」たといっても誰も驚かずにスルーしていたことです。
ここらへんも後から「なるほど」と思わせるような展開になっており、妙な納得感があります。
映画RAWの最後に
多くの葛藤を内面に秘めた演技が光る素晴らしい作品です。
題材が少しグロいものなので万人には受けないでしょうが、それでも描きたい方向性が明確になっており、演技一つ一つが丁寧に描かれている本作は見た後にも心に余韻が残る名作だと思います。
ちなみに心の葛藤といえば、最近見た「ブルー・マインド」も女性の心の変遷を描いた作品ですのでおすすめです。