映画ゲット・アウトの評価
★★★★★
映画ゲット・アウトはいつもと違ったホラーテイストの作品です。
シリアスな展開の中でコメディの色も感じる本作ゲット・アウトはアメリカの闇を照らす、一作です。
ゲット・アウトのDVDを買われた方はぜひコメンタリーやもう一つのゲット・アウトのエンディングも見てもらいたいと思います。
映画ゲット・アウトのあらすじ(前半)
夜の住宅街で黒人青年アンドレは突然車から降りた鉄マスクをつけた何者かに誘拐されてしまいます。
数か月、黒人のクリス・ワシントンは白人で大学生の恋人ローズ・アーミテージの両親に会いに行くことになります。自分が黒人であることに不安を感じてるクリスは白人の両親が自分を歓迎してくれるかとても不安でした。
しかしローズは、両親は人種差別なんてしないで歓迎してくれると言うので、ローズの実家、アーミテージ家へと向かいます。
その道中車がシカと衝突し、白人警官から聴取されるローズに警官がクリスにも身分証を見せるように伝えます。
ローズは彼が黒人だから特別に身分証を出させたとしてとても憤ります。
アーミテージ家に着いたクリスはローズの両親から歓迎されました。
ローズの母ミッシーは催眠療法を行う精神科医、ローズの父ディーンは神経外科医で、彼はすすんで家を案内してクリスを安心させます。そして黒人のお手伝いさんジョージーナや、黒人の庭師ウォルターもいますが、なぜかよそよそしい態度であることと、白人の家に住み込みの黒人のお手伝いさんがいることになんだか不自然で、差別的な印象を受けました。
ローズの弟ジェレミーも交えてディナーをした晩、よく眠れないクリスは煙草を吸うため外に出てみると異様な光景を目にします。
ジョージーナは窓に写る姿をじっと見つめており、その顔はなんだか不自然な感じでした。
ウォルターはなぜか夜の庭をまるで子供の用に全力疾走するという、不可解な行動をとります。
クリスはこれに恐怖を感じて家の中に戻りますが、そこでミッシーに会い、話しているうちに催眠術をかけられてしまいます。
まるで暗闇の中に落ちていくような気分の悪い夢を見た彼は深い眠りに落ちました。
翌朝目覚めたクリスは、悪夢を見たのだと思う。ミッシーはクリスに禁煙できるようにしむけたと言いました。
翌日、アーミテージ家でパーティが開催されます。
招待客が集まり、みんなクリスに親しげに話し掛けてきます。
招待客のほとんどが白人であり、黒人で自分に必要以上に興味を持ったり、黒人であることの存在意義のようなものまで尋ねられ、気が滅入ってしまいました。
盲目の画商であるジム・ハドソンも招待客の白人の1人で、ジムは写真家であるクリスの持っている目をとても羨ましく思っていました。
そして黒人の招待客であるローガン・キングは、倍は年上の妻である白人女性と参加していました。
クリスはローガンに対してもジョージーナやウォルターのような不自然さを感じていた。
映画ゲット・アウトのあらすじ(後半)
クリスは運輸保安局で働く友人ロッドに催眠術などの不可解な体験を相談します。
ロッドははじめ冗談のようにクリスをからかい、白人はクリスをセ○クスの相手として利用するだけだ、と警告します。
そして、ローガンの写真を撮って送るように言います。
そこで、クリスがローガンの写真を撮ると、ローガンは逆上し「ゲット・アウト!(出て行け)!」と叫び、クリスに襲いかかってきました。
ローガンはミッシーの部屋に連れていかれ、催眠術によって落ち着きを取り戻します。
不可解な出来事が続き何かがおかしいと感じたクリスはローズと共にパーティから離脱し、もう帰ろうと話します。
その頃パーティでは、なぜかクリスの写真が前に飾られ、ビンゴに見せかけた謎のオークションが行われています。
そして盲目の画商であるジムが落札します。
クリスはローガンの写真をロッドに送ると彼はインターネットで彼がアンドレという行方不明の男ではと疑います。
クリスが帰り支度をしていると、ローズがローガンを含む多くの黒人男性や、ジョージーナと一緒に写った写真なども見つけ、ローズの行動について疑いを持ちます。
クリスは急いで逃げ出そうとしますが、アーミテージ家に阻止されます。
ローズはなかなか車の鍵を渡さず、ジェレミーに襲われました。ローズは突然彼を冷たい目で見つめはじめ、彼に車のカギを渡さないと言い出しました。
全てを理解したクリスは慌てて逃げ出そうとジェレミーに襲い掛かりますが、ミッシーにより催眠術にかけられクリスは眠りに落ちます。
催眠から目覚めたクリスは椅子に縛り付けられていました。
そしてそこでは目の前にテレビがありある動画が流れます。
それは彼らのパーティは黒人を標的にした秘密の組織の会合だったというのです。ローズが黒人を恋人にして騙し、弟は誘拐をし、ローズの母が催眠術にかけ、父がビンゴオークション落札者である白人の脳みそを黒人に移植する。
それにより、白人は黒人の肉体を使い、永遠の精神、生命を得られるという手術を、アーミテージ家は祖父の代から続けていたというのです。
全てはクリスを騙すための陰謀だったのです。
ローズの父はクリスに盲目の画商ジムの脳を移植しようとします。
オークションでクリスを手に入れたジムは視力を取り戻すために、クリスの肉体を望んだのです。
クリスは再び催眠にかけられそうになりましたが、催眠の合図となる音を聞かないよう耳に綿をつめていたため、見事彼らを騙し、なんとか自力で脱出を図ろうとします。
まずはジェレミーを殺し、次に父ディーン、そして母のミッシーも殺害し、ジェレミーの車で逃げようとします。するとジョージーナが車を止めようと襲いかかります。
ジョージーナにはローズの祖母、ウォルターにはローズの祖父の脳(精神)がそれぞれ移植されていました。
車でジョージーナを弾きましたが、それが母親に重なり彼はジョージーナを抱きかかえ車に乗せますが、再び目を覚ました彼女は彼に襲い掛かりました。
車中でクリスともみあいになったジョージーナは、木に衝突したことで死にます。
ローズとウォルターもその場に追いつき、クリスはウォルターによってライフルで襲われそうになりますが、カメラのフラッシュによって催眠を一時的に解かれたウォルターは、クリスではなくローズを撃ちます。
その後ウォルターは自分にもライフルを向け命を絶つのでした。
まだ生きていたローズはライフルをもってクリスを殺そうとします。
しかしそれに抵抗しローズの首をしめるクリス、しかしローズを殺せません。
そこへロッドが駆け付け、クリスは救われるのでした。ローズは去っていくクリスを見つめていました。
ケット・アウトのネタバレ解説
最近のアカデミー賞受賞作品の中で最も見たかったのがこのゲットアウトでした。
正直アカデミー賞では監督賞なんかよりも脚本賞を取る作品のほうが私にはテイストがあっているので楽しみにしていましたが、ゲット・アウトはその期待に見事応えてくれる作品でした。
ゲット・アウトは日本ではホラーとしてのカテゴリーになっていますが、アメリカではコメディ、そして監督本人が「これはドキュメンタリー」と言っているところからして、ゲット・アウトの見方としては全部一応正しいのでしょう。
実際に監督自身はコメディアンですし、コメンタリーの中でも笑いと恐怖は実は目指しているところは一緒というセリフがあります。
そして監督がドキュメンタリーというカテゴリーにしているのもやはり現実世界の「何か」に向けたメッセージを含んでいるのでしょう。往々にして現実世界の物事は見方によっては笑えるし、恐怖を感じるという事象が多いのでしょう。
監督が伝えたい何かとは?
いや、でもゲット・アウトは本当に怖かったですね。
何が怖いって、ゲット・アウトにはお化けも出てこなければ化け物も出てきません。出てくるのは不自然な人間ばかりです。
まるで愛想を振りまく政治家のような、証人喚問に立った官僚のような作られた表情や人間関係というのが恐ろしくてびびります。
会う人会う人全員ロボットなのか?と思うような不自然な行動。彼らは至ってまともな人種なのがさらに怖いんです。
医者だったり、プロゴルファーだったり、美術商だったり、普段の生活ではまともなビジネスを営み、もしかしたら寄付をしたり、それこそ本当にバラクオバマに投票していたのかもしれません。
そんな至ってまともな人たちが心の下では、黒人の優れた肉体を手に入れたいと思っているのです。
こんな恐ろしい仮面はありません。
ゲット・アウト最大のネタバレは黒人に目を付けて、屋敷に誘い込み、白人の脳を移植して、永遠に優れた肉体を手に入れようという試みです。
これ自体も十分楽しみに値する設定ですが、本作で伝えたいのは、根底に流れるレイシズム(人種差別)の話でした。
あんなに紳士そうな人たちが、ドライにオークションをして、黒人を手に入れたいと願っているのです。
私が感じた違和感、それは「黒人であることを話題にすること」それ自体ですね。
「私はオバマを支持する」「なぜ黒人だから免許を見させるのか」「タイガーウッズは最高だ」「これからはブラックの時代だ」もはやこれらすべて白人が黒人に対して黒人の話をする時点ですでに差別が起きているのですよね。
ゲット・アウトのもう一つのエンディング
ゲット・アウトDVD特典の中にはもう一つのエンディングが入っています。
それはクリスがローズを殺し、クリスが警察により収監されるというものです。
クリスは最終的に何も言わず、白人を何人も殺したので刑務所で暮らすことになります。
これは黒人、しかも身寄りのない黒人が、明らかに社会的地位の高い、医者や美術商たちを殺すという事件に対して、その差別的先入観から有罪にされることを暗示しているのだと思います。
まさにこれがすべてのゲット・アウトの趣旨を表しています。
アメリカではいまだに黒人は白人よりも犯人逮捕時に射殺されるケースが多いそうです。それはなにかしらの差別的意識が根本にあることを指しているのです。
でもこれはお蔵入りになりました。おそらくこれは「やりすぎ」だと感じたのだと思います。
今はタイガーウッズやバラク・オバマのように少しでも黒人が活躍する時代が来ているから。
そんな希望と絶望を両方持つためにあえてゲット・アウトをハッピーエンドにした監督の采配が私は大好きです。
ゲット・アウトの最後に
ゲット・アウトは作品としては真面目な作品ですが、監督がコメディアンということでロッドのセリフなんかは本当に笑えます。
「お前は催眠術を掛けられて白人のセ〇クス奴隷にされちまう」なんていう当たらずとも遠からずの絶妙な不謹慎ギャグをかますあたりは大好きです。
実際ロッド役のリルレル・ハウリーはコメディー俳優としての賞を受賞しています。
私自身は冒頭に書いた通り、笑いと恐怖は紙一重というのはまさにそう思うので本作はとてもおもしろかったです。
人種差別という恐怖を日本人はそれほど感じられません。だからYahoo映画の得点は世界の平均よりも何割か低めに出ています。
それでもゲット・アウトを通じて人種差別という恐怖は十分味わうことができました。
いかにアメリカでまともな白人が黒人を搾取しているかがわかるそういう作品でした。