映画「来る」のあらすじ
幸せな新婚生活を送る田原秀樹(妻夫木聡)は、勤務先に自分を訪ねて来客があったと聞かされる。取り次いだ後輩によると「チサさんの件で」と話していたというが、それはこれから生まれてくる娘の名前で、自分と妻の香奈(黒木華)しか知らないはずだった。そして訪問者と応対した後輩が亡くなってしまう。2年後、秀樹の周囲でミステリアスな出来事が起こり始める。
https://movies.yahoo.co.jp/movie/363376/story/
映画「来る」のネタバレ感想
この記事のタイトルにある通り、正直がっかりした作品です。
改めて言うまでもないですが、この映画の原作は2015年の日本ホラー小説大賞の大賞受賞作「ぼぎわんが、来る」であり、面白くないわけがないわけです。
最高の映画になるはずだった
まず言いたいのは、この映画は最高の映画になるはずだったのです。
まずはキャスト。
実力派が揃っています。
妻夫木聡はどこにでもいそうな上辺だけのいい人そうなパパを見事に演じ、黒木華その上辺はとてもいい子そうでしたが、旦那に負けず劣らずの裏の顔を持つクソ野郎でした。
岡田准一は相変わらず、役に立つんだか立たないんだかわからないヘタれ野郎を演じ、今回アカデミー賞級の活躍をした、柴田理恵と松たか子は怪演により、見事にこの映画の世界観を作ったと言えるでしょう。
カメラワークも最高でした、最近はB級ホラーばかりしか見ていないもので改めてカメラワーク一個でこうも映画って違うのかと感心。
フィックス、パン、ズーム、クレーン、とその時その場所、伝えたいメッセージに合わせて変わっていくカメラワークは近年の映画でも最高の出来だったことでしょう。
映画の雰囲気自体はなんともいえない世界観です。
子供がマンションの一室で虐待されているのは「子宮に沈める」のように、人間の業や祈祷は「哭声/コクソン」のように、不気味な語り口は「告白」のように、実体のない化け物の恐怖は「残穢」のように、いずれの名作ホラーのいいところの雰囲気を合わせたような描写や世界観です。
それでもつまらない理由
さて、本題に入ると、多くの人がなんだかこの映画を見終わった後に「?」となっていないでしょうか。
「あれ」を食い止め、チサが助かり、野崎と真琴はいい家族になりました、めでたし、めでたし、と幸せな気分にならなかったのはなぜか?
私は原作は読んでいませんので単に「原作に忠実じゃないから」という理由以外にこの映画がいまいちと思った理由を考察していこうと思います。
映画の主役は化け物か人間か
まずこの映画の主役は誰でしょうか。原作から映画化に際して、「ぽぎわん」という言葉が取り除かれていることからこの映画は「ぽぎわん」という化け物に主眼がないことがわかります。
つまりこの映画は人間に焦点を当て、その中でその人たちに起こる災難だったりが主眼来るはずです。
しかし、一方でラスト松たか子演じる琴子が始めたのは全国の聖職者を集めた大規模な祈祷=化け物との闘いでした。
エンタメ要素としてこういった化け物との闘いは外せない、という人もいるかもしれませんが、正直この映画で伝えたい人間の業だったり、裏の顔だったりというところからは大きく外れている描写です。
しかもラスト、その祈祷ですら茶番に近く、結局は琴子がいてもいなくてもチサはなんとか助かったんじゃないの?という空振りのような結末です。
もちろん、「人間の愛は偉大なんだよ」という解釈も悪くないのですが、あそこまでセツ子やら琴子がエクソシストのような化け物との格闘をしながら、最後は「結局は愛が大事」なんてホラー映画としてお粗末すぎます。
結局「あれ」は何だったのか
全ての事象を説明できなくてもいいのですが、それでもある程度想像はしたいのです。
この映画では結局「あれ」(原作では「ぽぎわん」)を類推することすらできないわけです。
秀樹が幼少のころ「あんた嘘つきだから」と言われたことから嘘つくと連れていかれるの?と思ったわけです。でも、一方で部屋を荒らしたり、お守りを切ったりしたのは香奈のせいだったり、津田が魔導札をつかったから悪霊は来たんだというような2転3転するような展開のせいで結局「あれ」は何だったのか理解する糸口すら見つけられないまま全員死んでしまい、ラストハッピーエンドまで来てしまい、見ている人は置いていかれてしまったわけです。
人間の業?
この映画は「人間の業」を描いているんだ、なんて書いている人もいます。
正直、野崎だって、田原夫婦だって、真琴だって、津田だって「業」とも言えないような「ちっちゃいことで小競り合い」している人間ばかりです。
彼らは別に特別悪いことをしているわけではないんですよね。
そんなに呪われるほど悪いことしてますかね?チサにしろネグレクトと呼べるかかなり怪しいです。
それでも「いやいや、この映画はそんな誰にでも起こりうる、ってとこが怖いんだよ」なんて言われるかもしれませんが、それではもう何でもありじゃないですか。
「来る」の最後に
最後は愚痴ばかりになってしまいましたが、それでもこの映画は素晴らしい土台を持っていたのにもったいな、という愛のムチなんです。
あ~前半の30分くらいの田原夫婦のくだりもなんだかね、、、、悪霊ホラーというよりも、あれで香奈が旦那を殺害しました、みたいな火サスみたいな展開のほうがあってるよな~なんて、もうそろそろ批判はやめようと思います。