願ったものがすべて叶うという不思議な部屋(Room)、そこに引っ越してきた夫婦の不思議な体験のお話「ウィッシュ・ルーム」のネタバレ解説です。
ウィッシュ・ルームのキャスト
オルガ・キュリレンコ:ケイト
ケヴィン・ヤンセンス:マット
ジョシュア・ウィルソン:シェーン(少年期)
ジョン・フランダース:ジョン・ドゥ
フランシス・チャップマン:シェーン(青年期)
主演の売れない翻訳家ケイトを演じるのは『007 慰めの報酬』でボンドガールのカミーユ役を演じたオルガ・キュリレンコです。
また、その旦那マットを演じるのは映画リベンジで愛人を殺そうとする男を演じたケヴィン・ヤンセンスです。
あらすじ(ネタバレあり)
芸術家のマットと翻訳家のケイトはニューハンプシャー州北部の人里離れた大邸宅に引っ越してきます。その家はかつて殺人事件があり、身元不明の男がその家に住む夫婦を殺害していました。
ある日電気設備の修理のために家を整理していたマットは厳重に施錠された隠し部屋を見つけます。その部屋では不思議なことに願い事をすると何でも叶ってしまうのでした。二人はお金をはじめ、絵画、シャンパン、宝石など欲しいものを好きなだけ手に入れることができました。
何もかも手に入れたマットとケイトでしたが、そのうちに贅沢に飽きてしまいます。ふと、マットはかつて諦めた子作りを提案します。しかし、子供が欲しいものの二度流産しているケイトにとってもう子作りは彼女にとってトラウマになってしまっていました。
次の日ケイトは例の部屋に行って子供が欲しいと願ってしまいます。人道に反する行為だと反対するマットでしたが、ケイトは子供を手放す気がありません。子供はシェーンと名付けられ仕方なく子育てをはじめる二人でした。
あの部屋の不気味さに気づき始めたマットは、かつての殺人事件が何か関係していないかと身元不明の男(ジョン・ドゥ)を訪ねて刑務所へ向かいます。男はあの家から出ていけとだけ忠告します。帰り道、マットは町でお金を払おうとすると、ポケットにはお金の代わりに灰が入っていました。あの部屋で願って出したものはあの家を出ると灰になってしまうのです。
同様にケイトの作った子供も家から出ると急激に年を取ってしまうのでした。
ネタバレ解説
ホラーかと思いきやどちらかといえばスリラーの色が強い本作。展開はとても早く、中盤以降怒涛の展開を迎えます。
ウィッシュルームの謎
なぜあの部屋が願いをかなえてくれるのか?など細かいことは描かれません。はじめは鉄の壁に囲まれた人工的な場所かと思いきや、途中から雪が降る林間になり、一気に世界観が広がります(シェーンがおそらく願ったためと思われる)
ちなみにウィッシュルームという題名ですが、本作であの部屋がウィッシュルームと呼ばれることもないですし、原題も「ROOM」なので完全に日本語のオリジナルの題名です。
この手の映画は願いを叶えることと引き換えに代償を生むケースが多いです。例えばセブン・ウィッシュという作品では箱に願えばその分誰かが不幸を受けるという設定になっていますが、ウィッシュルームで願いをしても特に代償はありません。ただ1つのルールはあの家から出るとウィッシュルームで生み出したものがなくなってしまう、もしくは急激に劣化していくのです。
シェーンが生き残る方法
ウィッシュルームによって生み出されたシェーンは家から出ることができませんでした。正確には家から出ると急激に年をとってしまうのです。彼が生き残るヒントは同じウィッシュルームで作られたジェーン・ドウだけが知っていました。
「創造主、つまり母親を殺せば子供は自由になれる」
というものでした。正直ほとんど思い付きのように作られたシェーンは気の毒でしょうがないですし、ケイトも愛しているようでどこかシェーンを怖がっている気概があります。特に彼女はシェーンがとてつもないスピードで成長しているのを見て「この子は人間ではない」と気づいてしまったのでしょう。結果的にケイトは我が子のために自分の命を差し出すことができませんでした(車の事故で死のうとしたができなかった)
逆に、マットは「この子は人間でない」というところからスタートしていますが、人間のように喜怒哀楽を持つシェーンをむしろ物語の進行とともに少しづつ愛しているのは興味深いです。
シェーンは化け物なのか?
最終的にシェーンはマットたちを襲ってしまうわけですがこれはいくつかの”未熟さ”が生んだ悲劇でした。
1つはマットやケイトの未熟さ。本来であれば何年もかけて人は親になっていくものですが、彼らはある日突然子供を授かり、数か月で青年にまで成長してしまうわけです。マットにいたってはその現実を受け入れることからスタートしなければなりません。結果、シェーンは父親の愛情を受けることができない子供となってしまいます。
もう1つはシェーン自体の未熟さです。本作では家の外に出ると急激に成長するという設定ですが、どうも精神的な部分はあまり成長しないように見受けられます。青年になっても「ママ」と呼んでいたり、言葉遣いも単調であることからも精神的な成長はそれほどないように思います。それもそのはずで、シェーンは本来人間が得るはずの社会性や親からの愛など必要な成長をその体に受け取っていないから当然でしょう。
マットを憎むのもエディプスコンプレックスの1つとも言えますが、結果的に身体の成長のほうが早いため誤って母親であるケイトを性行為の対象と誤認するシーンすらありました。(本来は理性で母親への性愛感情は抑えられるはず)
そういう意味では何とも悲しいお話でシェーンが殺人鬼のようになってしまう理由もわからなくもないわけです。
ラストの気持ち悪さ
これで終わってしまえば悲劇の物語として終わるわけですが、そうは終わらないのがこのウィッシュルーム。
ラストの最後でケイトは自身が妊娠していることに気づきます。本来なら幸せな報告のはずが複雑な顔をする彼女、これはなぜでしょうか。
1つはシェーンのことがトラウマになってしまい、もう子育てに自信がなくなってしまったことが考えられます。また、もっと気持ち悪い話としては生まれてくる子供は実はシェーンである可能性があります。全く同じ顔をして、いつかあの自分たちを襲ってきた子供に成長してしまうわけです。
そして、これはさらに気持ち悪い話ですが、その子供はシェーンとの子供であるという可能性です。
作中では実際に二人で最後まで性行為が行われたかどうかはわかりませんでしたし、ラストシーンでシェーンとケイトたちが争っていたのはウィッシュルームの中でした。もし、シェーンが「ママが僕の子供を妊娠してほしい」なんて願ってしまっていたら。。。。。これは実は衝撃のラストになっているのではないでしょうか。
感想・レビュー
総じて満足できる作品でした。設定が甘い部分も多少ありますが、展開も早いのでそれも全然気になりません。
ラストも「たぶんシェーンは死ぬんだろうな」という予定どおりに着地したあとに、ケイトの不安な表情。あなたはこのお話をどう解釈しましたか??