アンデッド/ブラインドの評価
★★★★☆
見てよかったです。
いつものゾンビ映画やパニックものなんかを期待していると大きく外しますが、当初思っていたよりも「いい意味で」全然違う映画でした。
何より切り口がいいですね。
ネタバレ感想のところで書きますが、この話は私から言わせると「美女と野獣」のお話をダークにした映画なわけです。
それぐらい見てみないと、その良さや魅力がわかりずらい映画になっています。
人喰いモンスターを演じたナディア・アレクサンダー、誘拐され虐待され目を焼かれ心身ともにボロボロな少年を演じたトビー・ニコルズ、ともにお見事。
アンデッド/ブラインドのあらすじ
林の中を走る一台の車がガソリンスタンドに泊まります。
運転していた男は指名手配されている凶悪な男でした。
彼はガソリンスタンドの店長を殺し、林の中の道を「化け物が出る」というデビルズ・デンに向かって走っていました。
すると突然車がパンクします。男がおりて調べると車をパンクさせるための罠のような仕掛けがあり、仕方なく近くの民家を訪れます。
しかし、民家に入った男は小さな女の子に殺されてしまいます。
彼女の名前はミーナ。
母親の暴力的な恋人に性的暴力を受けた上に殺されて埋められた彼女は、なぜか蘇り、このデビルズ・デンで人を襲っては食べていたのでした。
男を殺したミーナは男の車を調べます。
車にはアレックスという盲目の少年がいました。
彼は誘拐犯に連れ去られ暴力を受けていました。
アレックスとミーナは互いの存在を気にかけながら林の中をさ迷いだします。
アンデッド/ブラインドのネタバレ感想
「未体験ゾーンの映画たち2019年」で個人的にひときわ目立っていたのがこの「アンデッド/ブラインド不死身の少女と盲目の少年」です。
タイトル、ジャケット、あらすじから見るとホラー映画に見える本作ですが、鑑賞すると単純なホラー映画ではないことに気づきます。
むしろ二人の悲しい男の子と女の子の再生の物語であり、ホラー映画風のヒューマン映画です。
紛らわしい日本のジャケット
毎度日本の配給会社には飽き飽きしていますが、このアンデッド・ブラインドに関して言えば本当に残念です。まずこのジャケットです。
ミーナが「あなたを食べたい」と書いていますが、本編に「アレックスを食べたい」なんて描写は一切ありません。
そして、アレックスが「君を見たい」というのも果たしてそんなことを彼が思うでしょうか。彼はすでに盲目であることを受け入れ、誘拐犯に心から隷属しているので少し的外れなように思います。
このジャケットを作った人はこの映画を見ていないのがまるわかりです。
アンデッド版「美女と野獣」再生の物語
さて、タイトルですでに彼女が「アンデッド」であることがばれていますが、この話はアンデッドの彼女が人間相手に無双するのではなく、彼女が徐々に人へ戻っていく過程が描かれます。
非常に珍しいタイプの映画である意味では「辻褄があわない」「どうしてああなる?」など不思議なことが多いのですが、そこはこの映画のジャンルが「ファンタジー」ということで目をつむるべきでしょう。
考え方としてはディズニーの名作「美女と野獣」と同じです。
野獣がベルを愛することで人間に戻ったように、アンデッドから人間に戻るために「愛」を知ることが、実はミーナが戻るカギだったのです。(女側が野獣だったわけですが)
その過程はラスト30分にかけて劇的に行われ、例えば熱いものを触って熱いと感じる触覚を取り戻したり、人間の女の子のように服装に気を使ったり、極めつけは人間の食べ物を少しづつ食べれるようになったりして、人間に戻っていきます。
大人に裏切られた二人の少年少女
アレックスとミーナには共通点があります。
共に大人に虐げられた最悪な生活を強いられてきました。
ミーナは母親の彼氏に性的暴力を受け、母親はそれを見てみぬフリされ、最後には殴り殺され埋められてしまいます。
アレックスは誘拐犯の男に目を焼かれ、逃げれば家族を殺すと脅され、自分が死んでも自分とは違う人間が追いかけてきて捕まえるという心理的に何重も檻を作り彼を精神的に拘束しました。
ミーナにとって人間は、自分を虐げてきた象徴であり、いつしか彼女はそんな大人を憎むアンデッドになります。
しかし、自分と同じ境遇にいるアレックスを見た時、彼が自分を虐げるものではなく、自分が守るべき者だと直感で認識したのでしょう。
蘇るミーナ
アレックスと出会い、ミーナは変わります。
食人鬼のような形相が少しづつ変わり、言葉をしゃべり、アレックス相手に「自分がアンデッドであることを隠す」ような発言を繰り返します。これはアレックスに「自分をよく見せたい」と思う、人間であれば他人に当然持っている感情です。
そして、目が見えないアレックスの手をひいて、電話を手に入れ助けを呼ぶように言い、人を殺したアレックスに対し「殺す必要はなかった」とまで言います。
女性として、ファッションに気をかけ鮮やかな服を身に着け、そして気づけば彼女は人間に戻っています。
まるで森の中で人を襲っていたアンデッドだったころが嘘のようです。
これがこの映画をホラーではなくファンタジーたらしめている象徴ですね。
最後に
一部中だるみして唐突に人間への軌跡を進むのについていけない人はこのお話を楽しめないようですが、実は少しづつ映像自体もおちついた色合いから華やかなコントラストの画に変わっていきます。こういう細かな撮り方や編集もこの映画の完成度を高める要素の一つになっています。