ディストピア パンドラの少女の評価・感想
★★★★☆
マンネリ化したゾンビ映画に一石を投じる作品です。
終始暗い雰囲気の中でラストの展開については賛否両論でしょうが、個人的には楽しめる作品でした。
ディストピアというぐらい暗い世紀末でそれでも明るく生きているメラニーにはどこか希望のようなものが感じられたからでしょう。詳しくはネタバレ解説の章で魅力を記述します。
ディストピア パンドラの少女のあらすじ
近未来では謎の病気が蔓延し、人々が人肉を食べるようになるハングリーズという病気が流行っていました。その病気は体液により感染し、まるでゾンビのように人を変えてしまいます。
メラニーは軍事基地にいました。拘禁された彼女は日中だけヘレンの授業を受けていました。
メラニーはハングリーズでありながら高い思考能力を持っていました。そこにはメラニー以外にも多くの思考能力をもったハングリーズたちがいました。
ある日軍事基地がハングリーズに襲撃され、メラニーはヘレンとパークス、ハングリーズの研究をしているコールドウェル博士とともに基地を脱出します。
彼らが逃げ続けますが、ハングリーズの圧倒的な数の前に仲間は減っていきます。
ふと彼らはハングリーズの菌により寄生され、新しい菌糸を出している生体に出会います。これこそがハングリーズの菌の第2形態であるとコールドウェル博士は不安を覚えます。
一行は移動式の実験室を見つけ、そこを拠点とすることにします。
しかしそこにはメラニーほどの知性はないもののハングリーズの菌に耐性を持つ少年少女がいました。
彼らはパークスたちを食べようとしますが、メラニーが止めます。
結末ラスト
敗血症により先が長くないコールドウェルは自身の実験を完成させようとメラニーを眠らせ無理やり実験室に連れていきます。しかし、常人よりも肺活量が上がっているメラニーは眠ることなく実験室から逃げ出します。
メラニーは菌糸を出しているハングリーズのサヤに火を放ち、菌糸をばらまき、残った人間はハングリーズになりました。
ヘレンだけは実験室の中にいたので無事でした。
生き残ったヘレンは実験室から出られませんでしたが、メラニーや他の子供たちにいつものように授業をはじめるのでした。
ディストピア パンドラの少女のネタバレ解説
近年多くあるゾンビ映画の中で、最近はコメディだったり恋愛だったり、ミュージカルだったりと多くの”色物作品”が出てきたが、この作品もゾンビ映画でありながら一風変わった作品に仕上がっています。だが、ここまで絶望の物語はそうはありません。
ディストピアとはユートピア(楽園)の真逆の言葉、なるほどメラニーやヘレンがいる世界は世紀末の世の中でもはや楽園とは程遠い世界でした。
冒頭そんな世界ですらさらに状況は悪化、ハングリーズの襲撃によりもはや終の棲家であるはずの基地から逃走します。
一人また、一人と脱落していく中で、メラニーが最後に下す決断こそがこの物語を完成させています。
ゾンビ映画のラスト
多くのゾンビ映画が、パニック映画としての側面だけ提供し、特に何かが解決されるわけではありません。よくあるのは生き残った人間たちは旅を続けましたとさ、というような何とも言えないラストで終わるのが普通です。
この映画では最後にメラニーが菌糸を世界中に放つことで人間はヘレンを覗き一人残らず全滅したものと考えられます。
これはゾンビ映画において極めて異例のラストであると言えます。
メラニーがパンドラたる由縁
この映画や原作がパンドラを標ぼうしているのはこのラストに関連します。
パンドラの箱は聞いたことがあるでしょう。
パンドラの箱
パンドラの箱とは、ギリシャ神話で、ゼウスがすべての悪と災いを封じこめて、人間界に行くパンドラに持たせた箱のことで、パンドラが好奇心からその箱を開けたため、人類は不幸にみまわれるようになり、希望だけが箱の底に残ったというお話です。
ここでいうメラニーがあけた箱とは、人間に寄生していたツタのようなサヤのようなものです。それが開くと中から胞子がでると空気感染して人間はハングリーズになってしまい、文字通り不幸というか、人間はほぼ絶滅しました。
一方で、パンドラの箱には希望が残ります。それこそが移動実験室の中に隔離されたヘレンではないでしょうか。
ラスト結末解説
まとめると、メラニーはそれまで人間のいい面と悪い面を多々見てきました。
コールドウェル博士はじめ多くの人間は自らの研究や命のことしか頭になく、メラニーのことはほとんど”研究のためのモルモット”としてしか見ていませんでした。そんな人間の汚い面とは裏腹にヘレンはまるで実の母のように自らを守ってくれ優しく接してくれました。
後半コールドウェル博士が自分をワクチン生成のために犠牲にしようとしたことでメラニーは世界にハングリーズの胞子をばらまくことを決断します。一方で、ヘレンのように心優しい人間は生き残る権利を与えたのです。
もう少し進んで考えるとメラニーは今いる人間を生き残らせることを諦めたのです。
その代わりに自分たちは二次感染した子供たちに知恵や秩序を与えてくれるヘレンを生かすことに決めたのです。
メラニーの生きる道は人間たちの中には無かったのです。彼女は終始絶望したことでしょう。
こんなに助けている相手が自分を恐れ、拘束し、挙句の果てには自分たちが生きるための糧(ワクチン)にしようとしているなど彼女にはさぞ絶望だったことでしょう。
そんな彼女の絶望を証するかのように人間が絶滅したあとのメラニーは自らの残された十分な時間に満足そうに微笑みます。
彼女にとっては人間がいたころの世界こそディストピアだったと言えるでしょう。
最後に
ゾンビ映画全般に言えますが、少しグロいシーンもありますが、見ごたえはある作品です。見終わった後に少し暗い気持ちになる作品ですが、メラニー視点でみれば、実はラストはハッピーエンドという見方ができる奇妙な作品であると言えるでしょう。