2018年5月からEUで一般データ保護規則、通称GDPRという法律が施行されます。
これは欧州版の個人情報保護法で、特にインターネット社会での個人情報の取り扱いを扱った大きな転換点を作っている法律です。
なんだ、欧州の話だから私たちは関係ないよと思っているあなた、それは違います。
日本でも同様の動きが起きる可能性があり、決して無視できるものではありません。
GDPRはどういう法律か
GDPRは簡単に言えば、個人情報の取り扱いは本人の同意なしでは取り扱えないという原則でスタートするものです。
たとえば、あなたはFacebookにいろいろな個人情報を預けていますよね。
名前、誕生日、友達が誰で、家族が誰で、誰と結婚して、いつどこで何をしていたかがFacebookにはあります。それはあなたがFacebookにどんどん写真や動画という形で情報を提供してきた結果です。
Facebookは無料で利用できるかわりに、あなたの個人情報を預かり、その情報を元にあなたに広告を配信しています。
デジタル広告は決して適当に配信していたのではなく、あなたの性別や年齢、趣味が何で、どこに勤めていて何にいいね!をしたかの情報から何に興味があるかを徹底的に分析されてあなたに合う広告が広告主から出されているのです。
GDPRの原則ではFacebookはあなたの個人情報を広告に使用することをあなたに同意してもらう必要があるのです。
「え、そんなの当たり前じゃないの?」
と思っているあなた、それが今のインターネットでは当たり前ではありません。それは今個人情報とされている範囲が決して明確になっていないことに起因します。
ネットの世界の個人情報は曖昧
今までの個人情報は名前や住所などが主流でした。誰がどこに住んでるかで個人が特定されてしまうのでそれは保護に値する話です。
でもネットの世界では名前や住所は必ずしも重要ではなく、大事なことはネットを見る「端末」(正確にはブラウザ)です。
インターネット上で広告を出すにはあなたが田中太郎さんであろうが、鈴木一郎さんであろうがどうでもいいのです。
あなたが使っている端末、スマホやPCの情報を抜き取れれば十分役に立つターゲット情報として利用できるのです。
位置情報も個人情報?
Googlemapなどで位置情報を使っていませんか?
スマホで位置情報をオンにしていると、いつどこに端末があるか、履歴として残ります。
位置情報だけでも、もしあなたが○○商事のビルに月曜日から金曜日の9時から5時までいるとするとほぼ間違いなくあなたは○○商事の人間であることがわかります。
土日や平日の夜に○○区××にいれば、あなたは○○区の××に住んでいることがわかります。
ネットの時代では個人情報の範囲は通常の個人情報保護法で定められる名前や住所の範囲を超えて規制しないといけないのです。
もう少し例をあげましょう。
Cookieも個人情報
クッキーは食べ物ではありません。これはウェブの閲覧履歴のことです。
あなたがあるサイトを見たらCookieというものが発行されて、閲覧履歴が残ります。
閲覧履歴は見た側(スマホやPC)と見られた側(メディア側など)の両方に残ります。
このクッキーを使うと誰がサイトに訪れたかがわかります(正確にはどのブラウザが、ですが)
ふーん、と思うかもしれませんが、これも広告に使われています。
たとえばアマゾンに言って閲覧したり、購入したりした商品が後ほどYahooなんかを見ていると広告で出てくることがありませんか?
これはリマーケティングやリターゲティングというもので、クッキーを利用してあなたがアマゾンで見た履歴からあなたを常に追いかけて広告を配信しているのです。
あなたが誰かは知りませんが、「アマゾンでこれに興味を持ってましたよね?」という情報がネット上で出回るわけです。
あなたはその個人情報(閲覧履歴)の利用を許したこと記憶はないですよね?
これは実際にヨーロッパではかなりの問題になっていて、これを専門にやっているクリテオ(Criteo)やアドロール(AdRoll)というリターゲティング業者はかなりの非難を受けています。
https://digiday.jp/platforms/ad-retargeters-trying-work-around-gdpr-apple/
あなたの広告収益に大きな影響を及ぼすかも
まあでもリターゲティングなんて自分は関係ないよ、というとそんなことはありません。
私もそうですが、あなたのブログにはGoogle Adsenseが貼ってありませんか?
Google AdsenseはCPC課金でクリックされるとあなたに収益が落ちるビジネスモデルですが、実はユーザーにクリックさせるためにありとあらゆる工夫がされています。
その一つはがCookieを利用したリターゲティングです。
通常バナー広告を出稿した際のクリック率は0.1%ぐらいですが、これにリターゲティングを組み合わせるとクリック率が200%~400%アップするといわれています。
理屈は簡単です。人間自分に関係のない広告はクリックしません。
たとえば私は男ですから化粧品の広告が出てもクリックはしません。でも自分の興味をGoogleがしっていれば私にあった広告が表示されやすくなるので必然的にクリック率は上がります。
つまり、ブロガーはこのリターゲティングによる恩恵を多く受けていることになります。
逆に言えばリターゲティングがなくなると単純に収益が8割減になることも考えられます。
行き過ぎたプライバシー保護は本当に必要か?
一つ一つのことを考えると確かにプライバシーの保護は重要だ!と言えるかもしれません。
ですが、例えばリターゲティングがなくなるとユーザーも不便を被ります。
なんせ、自分に関係のない広告ばかり出ることになる可能性があるからです。
女なのに髭剃りの広告が出たり、男なのに化粧品の広告が出たりその個人に最適化してくれているのはこういったクッキーなんかが役に立っています。
クッキーは例えばパスワードの記憶やページの推測にも使われているので悪いことばかりではありません。
何よりビックデータを使うこの時代に、この行き過ぎた保護によりヨーロッパはデジタルの世界ではどんどん遅れを取ることになるでしょう。
デジタル広告が盛り下がればもちろん関連するITサービスも盛り下がります。
今書いているブログ記事の収益が下がれば広告主も媒体側も盛り下がることでしょう。
「ターゲティングできることがデジタル広告の良さなのにクリックされない広告なんて意味ないよ」
デジタル広告自体の出稿が減ることになり、ブログから広告が消えてしまう日が来るかもしれません。