新感染 ファイナルエクスプレスの評価
★★★★★
韓国発のゾンビ映画 新感染-ファイナルエクスプレス-はホラー映画にも関わらずツタヤのレンタル映画のランキングで1位を獲得するという大人気の映画です。
特に目立った受賞はしていないものの完成度は高く、エンタテイメント作品として完成度は早くも2018年度の印象に残る作品にランクインしそうな勢いです。
なるほど、たしかに怖さもありますが、その中に人間ってこうじゃなきゃダメだよな~と思わせるようなドラマがあり、見ていて飽きない作品になっています。もちろんパニックものとしても一流の作品です。
新感染ファイナルエクスプレスのあらすじ
ソグ(コン・ユ)はファンドマネージャーのサラリーマン。
彼は他人を蹴落として自分さえ儲かればいいという資本主義の奴隷のような人間です。のちにも出てきますがある企業の株価を捜査して個人投資家をカモにしてお金儲けをするたぐいの人間です。
そんな彼は仕事一筋で家庭はほったらかし。妻と別居し、母と、娘のスアン(キム・スアン)と暮らしています。
娘の誕生日にWiiを買って帰っても実はこどもの日にも同じものをあげていたという典型的なダメ親父です。誕生日に何を欲しがっているかもわからないソグは、何か欲しいものはないかと尋ねると、スアンは「釜山に行ってお母さんに会いたい」と言います。
本当は仕事があっていきたくなかったソグですが、学芸会の発表会にも行けなかったこともあり、迷います。そして母親から学芸会のビデオを見せられ、途中で歌をやめてしまう娘を見て、心配になり自分も翌朝、二人はソウル発釜山行きのKTX101列車の3号車に乗り込みました。
同列車には、ワーキングクラスのサンファ(マ・ドンソク)と妊娠中の妻ソンギョン(チョン・ユミ)、高校生野球チームのジニ(アン・ソヒ)とヨングク(チェ・ウシク)達、高齢姉妹のインギルとジョンギル、高速バス会社の常務であるヨンソク(キム・ウィソン)らが乗っていました。
KTXは5時30分にソウル駅を出発しましたが、発車直前に、ひとりの女(シム・ウンギョン)が異様な様子で12号車に駆け込んできます。
駆け込んできた女は様子がおかしいです。彼女こそゾンビウイルスの感染者であり、車内で倒れていたところを介抱しようとした乗務員のミンジ(ウ・ドイム)に突然襲いかかり感染が始まり逃げ場のない列車の中は地獄と化していきます。
やがてソグは、感染者が自力で客室のドアを開けられず、また人を見ると反射的に襲い掛かる性質に気付き、ドアに新聞紙を貼って見えなくすることで感染者を中間の車両に隔離することに成功します。生き残った乗客たちは運転士から「次の駅には止まりません」とアナウンスが流れ、憤慨しますが、駅を通過する際、人々がゾンビに襲われているさまを目の当たりにして愕然とします。
そのころ各地で全国規模の暴動が発生し、死傷者が多数出ていました。
その後運転士の指示により、列車は大田駅(テジョン駅)で運転を打ち切り、軍により車内を鎮圧するため乗客は全員下車するよう告げられます。ソグは仕事のコネを使い、自分と娘だけなんとか助けてくれと交渉して、別のルートで逃げようと画策します。しかし、娘のスアンは、他人を見捨て自分だけ助かろうとする父を咎めるのでした。
誰もいない大田駅に列車が着き、乗客たちが下車するなか、乗客たちは出口に向かうが、待ち受けていたのは全員が感染した軍の兵士たちでした。結局駅にいた軍隊はもうすべて感染しており、ゾンビと化していました。
たちまち乗客たちは襲われ、次々とその犠牲になってしまいます。命からがら引き返し、慌てて列車に乗った生存者達ははぐれてしまい、ソグ、サンファ、ヨングクが9号車、妊婦のソンギョン、幼いスアン、年老いたインギルとホームレス(チェ・グィファ)が13号車のトイレに、ヨンソク、姉とはぐれたジョンギル、ヨングクのガールフレンドであるジ二ほか大多数が15号車にと、感染者のいる車両を挟んで分散してしまいます。
再び列車は走り出したが、携帯電話で妻の「早く助けにきて!」という悲痛な叫びを聞いたサンファと、娘もそこにいる事を知ったソグ、その先の車両にジ二がいる事を知ったヨングクは、それぞれの大切な人のため、力を合わせてゾンビのうごめく車両の中を突破する事を決意します。
どうにか愛する人たちと再会し、生存者の集まる15号車に向かった一行であったが、自分が助かる事ばかりを考えているヨンソクは「彼らが感染しているかもしれない」と言い、彼らを車両に入れませんでした。結局サンファとインギルはゾンビの犠牲となってしまいます。ソグはヨンソクを責めますが、ヨンソクは激高し、一行を連結部に締め出してしまいます。悲しみに暮れるソグ達であったが、エゴにまみれ醜く言い争う人々を見かねた乗客の一人がゾンビたちを車両におびき寄せ、最終的に彼らの多くはそこでゾンビになってしまいました。
ラスト結末
順調に進んでいた列車ですが前方の線路が破壊された列車とコンテナにより塞がれていたため停車することになり、別の電車への移動を余儀なくされました。
生き残った彼らは別のディーゼル機関車へ移動することになりますが、移動の際にジニが犠牲になってしまいました。
なんとかゾンビの群れから逃げ出したソグ、スアン、そしてソンギョンは機関車へとたどり着き、追いすがるゾンビの群衆を蹴落としながら、釜山に向かい最後の走行を始めます。
しかし機関車の運転室から出てきたのは、感染したヨンソクでした。まもなくヨンソクはゾンビ化してソグたちに襲い掛かり、ソグは何とか振り落としますが、その過程で彼自身も噛まれてしまいます。娘との別れを惜しむソグでしたが、スアンとソンギョンを守るために彼自身も機関車から飛び降りました。
逃げ切った先では、バリケードと犠牲者が線路を塞いでいたため機関車を降りたソンギョンとスアン共に暗いトンネルへと歩いていきます。その先には兵士がバリケード上で銃を構え、その人影が感染者であるかどうかを探っています。感染者か人間か判断ができない以上、射殺の命令が下され、今まさに引き金を引かんとしたその時、スアンの歌(アロハ・オエ)が兵士の耳に届きます。スアンの歌で生存者であると確認した兵士は銃を下ろし、すぐさま生存者の保護に向かい彼女らは無事救出されました。
新感染ファイナルエクスプレス見どころ
親子愛、夫婦愛、友情、パニック、ゾンビなどオールジャンルの映画
本作は単純なゾンビ映画ではありません。
主人公の親子愛や、彼自身の精神的な成長、家族としての愛情、また助け合ううちに育つ友情もあります。
もちろんパニック映画としても大変よくできている映画ですが、これだけ多くの要素を詰め込んでも違和感なく、しかも韓国映画特有の露骨なお涙頂戴な感じも少ないバランスの取れた作品だと思います。
ラストのソグと娘のやり取りは若干もたつきましたが、それを除けばとてもシンプルにまとまっており、展開も早いため、およそ2時間ある時間があっという間に過ぎていきます。
アメリカ映画特有のウィットにとんだ会話やブラックジョークもなく、真剣なパニック映画として描かれているもののため、ホラー映画が好きでない人やB級映画が好きでない方でも十分楽しめる内容となっています。
主人公ソグの精神的成長がとても気持ちいい
あらすじにもありますが、主人公のソグは仕事人間で親としては失格の人間です。
仕事も自分さえ儲かればいい、プライベートも自分の都合が最優先、そして、ゾンビに追われている中でも自分と娘だけ隔離を逃れようとか、自分と娘だけ助かろうというような行動や思考ばかりはじめはしています。
その後、妻を心配するサンファと出会い、彼はソグのそんな行動を注意するだけでなく、実際にソグやスアンを危険を顧みず助けてくれます。
余談ですが、本作の主人公はソグですが、裏のヒーローはサンファです。彼は一見頭悪そうなプロレスラーみたいな感じですが、人としての芯も太く、ゾンビの群れに向かっていくときも必ず先頭でみんなをひっぱってきました。
なお、彼がソグに「父親ってのは自分から進んで家族の犠牲になるもんだ」と諭しますが、サンファ自身はまだ人の親にはなっていません(笑)
ソグ自身もそんな彼に心を打たれどんどん行動を変えていきます。自分から誰かを助けたり、後半ではホームレスの命を助けるために自らゾンビの群れに乗り出しました。
ヨンソクはまるで彼自身のわがままのコピーのような人です。ヨンソクにより、ソグ自身も車両を追い出される場面があり、人に今までしてきたことがそのまま自分に返ってきてしまうようです。
できればそんな更生した彼自身生き延びてほしかったですが、それだけが悔やまれます。 そういう意味ではサンファが言った父親が犠牲になり、娘を助けるべきだ、という言葉をそのまま実行したのでしょう。
ゾンビのリアルな動きとその数、世界観の迫力
どれぐらいの予算をかけたのかわかりませんが、ゾンビの迫力はかなりあったと思います。演技も怖いものがありましたしその数もすごかったです。新幹線内でもみくちゃになるほどいたゾンビと操車場でディーゼル機関車を追ってきたゾンビはその数でとても迫力のある映像が出ていました。
また、今回のゾンビは以下の特徴があります。
・走ったり、飛び跳ねたりする
・目や音で相手をとらえる
・暗闇では相手を補足できない(音のみで補足)
・ドアノブを回すほどの知能はない
これら独自の世界観を作り上げることで、ゾンビを倒さずともゾンビをかわしていくようなおもしろさがあります。
新幹線という密室での迫力
新幹線でのゾンビ映画というのはとても新しいです。
やはりゾンビ映画はある程度ロケーションが絞られるほうが世界観が確立するので内容が濃いものになると思います。通常は建物だったり、動物園等の施設や島などの縛りで世界観を作りますが、新幹線という広いけど、実際の通路は狭いという設定、座席に隠れる、荷物棚の上を移動するなどとても逃げ場のない閉塞感が緊張感を持たせています。
特に今回のゾンビは暗いところでは相手を捕捉できないという設定からトンネル内でのゾンビをかわす行動などはとてもおもしろいなと思いました。
まるで映画ドントブリーズを見ているような、緊張感にとらわれました。
銃が一切出てこないリアルな設定
本作では銃が一切出てきません。そりゃそうですよね、アメリカと違い銃社会ではないので、銃が出てくるとそれだけで白けてしまいます。
映画アイアムアヒーローでは猟銃を持っているという設定でしたが、やはり違和感があることに変わりありません。なにしろ弾が必ず足りなくなりますから。
ゾンビといえばアメリカが中心ですから、どうしても銃で相手を殺すことが必須になってきます。私が見た中で銃が出てこない映画というのは正直思いつく限りありません。
ではどうするか、とにかく逃げるのです、隠れるのです、かわすのです。ゾンビの習性を逆手にとって相手を出し抜く知性こそが人間に残された最後の武器なのです。
そして最悪戦闘になってしまった場合は殴る、バットで打つなどの打撃が中心です。私ももしゾンビの世界ではそうなる気がします。
なお、この設定のおかげで本作では比較的血が飛び出ません。ナイフや銃でゾンビを殺すと血が飛び散りますが、ゾンビをそもそも殺すことが少ないため、万人でも見れるようなマイルドな作りになっています。
伏線を回収していくきめ細かい脚本
前半は色々な伏線が張ってあり、後半はそれをどんどん回収していきます。
サンファの息子は名前が決まっていませんでしたが、最後はスアンの名前をもらいます。スアン自身は学芸会で歌えなかった歌を最後トンネルの中で歌いきることで感染者でないことを証明し、一命をとりとめることになります。
ソグ自身もサンファに言われた言葉通り父親として自身を犠牲にして家族を助けます。
また、今回のゾンビ騒動の根本はソグが株価捜査して倒産を免れたインチキバイオ会社が造った薬が発端であったことが最終的に明らかにされます。
原因と結果の関係というか、色々な描写がうまく因果関係としてコンパクトにまとまっていて、真実が明らかにされるたびに、なるほど、と思います。
最後に
新感染ファイナルエクスプレスは自信をもっておすすめできる一作です。
パニック映画ではありますが、その中で生まれる極限状態での人間の行動変容が通常の映画では描けない人間ドラマとして、見ている人を感動させます。
ゾンビと言えばアメリカですが、アジアでもこのレベルの作品が出てきていることにとてもうれしく思います。
ぜひ一度ご覧ください!