映画制作人たち
バイトをはじめた銭湯で人が殺されてた、なんてなんとも面白そうなキャッチコピーのこちらの映画。制作陣も大変興味深いです。
本作は主人公・和彦を演じた俳優の皆川暢二の呼びかけにより、アメリカで映画制作を学んだあとIT業界でサラリーマンをしていた田中征爾と、俳優の傍らタクティカル・アーツ・ディレクターとしても活躍する磯崎義知という同い年3人で立ち上げた映画製作ユニットOne Goose( ワングース )による映画製作第一弾作品である。https://www.uplink.co.jp/melancholic/
キャスト
鍋岡和彦…家族三人実家暮らし、東京大学出身。卒業後アルバイトを転々としており、直近ではビルの清掃のアルバイトをしていた。副島と再会したことで銭湯「松の湯」でアルバイトをはじめる。
松本…鍋岡とほぼ同時期に銭湯「松の湯」でアルバイトをはじめた。見た目は金髪で、元殺し屋で童貞。
副島百合…鍋岡の高校同級生。銭湯「松の湯」に時々通っている。化粧品関係の仕事をしており、鍋岡に好意を持っている。
東…銭湯「松の湯」のオーナー。田中に借金があり、戦闘を殺しの場所に提供している。
田中…ヤクザ
小寺…銭湯「松の湯」の先輩アルバイト。殺し屋。殺しをやめたくて銭湯でアルバイトをしている。
あらすじ(ネタバレ)
東京大学を卒業した鍋岡は定職にもつかず、アルバイトで実家暮らしの日々を過ごしていました。ある日ふと立ち寄った銭湯松の湯で同級生の副島と再会します。彼女の明るい性格に引き込まれる鍋岡は彼女の一言から銭湯松の湯でアルバイトをはじめます。
ある日夜中に銭湯に明かりがついていることに気づいた鍋岡が銭湯を覗くとそこには東と小寺がいました。彼らは田中の命令で人を殺して解体しては焼いて証拠の隠滅を図っていました。その日から鍋岡も同期の松本と一緒に殺しを手伝うようになります。
結末ラスト
いつしか田中の言いなりになることに嫌気がさしてきた松本は殺しの業界から足を洗うために田中を殺すための計画を立てます。実行の日、東が田中と会い、松本を手引きするはずが東の裏切りにより松本が撃たれます。かけつけた鍋岡が田中と東を殺し、家に松本を連れて帰り治療します。東がいなくなってしまったため鍋岡は松本とともに銭湯松の湯を再スタートさせるのでした。
感想・レビュー
非常に楽しめた作品でした。青春・ホラー・バイオレンス・アクション・コメディ・ファミリー、いろんな要素を少しづつ足し引きしながらバランスよく、時に日常を、時に非日常を、時に笑いを、時に絶望を提供してくれる映画です。ここではこの映画の魅力をたっぷりと紹介します。
鍋岡の苦悩
映画が暗い雰囲気を作っているのがこの鍋岡の暗い性格です。超一流大学を出ながら無職の彼はどこか常に不満足な雰囲気を漂わせながら生活しています。その原因をはじめは「就職してうつ病になって会社を辞めてしまった」とかだろうと思っていたのですがそうではありません。
鍋岡は一度も就職することもなく、しかもその理由も特に語られることなく「なんで東大出たら就職しなきゃいけないの?」と質問に質問を返す始末。頭のいい彼は考えすぎてしまったのか「なんとなく」社会にサラリーマンとして素直に出ることができなかったのです。
そんな彼を前向きに進めたのが副島です。彼女の底なしの明るさに鍋岡は銭湯で働き人生を前に向けます。そして東に「昼間は鍋岡君が、夜は松本君がリーダーね」なんて言われてムッとしています。はじめて鍋岡は自分が必要され、自分が満足できる仕事を見つけたのにリーダーでないことに少し不満だったのです。これまで何も好きでもないし、何も嫌いでなかった鍋岡が感情を出し始めたのは鍋岡の人生が前に進み始めた証拠であり、それを後押ししたのは紛れもなく副島のおかげでした。
家族の温かさ
個人的にとても気に入ったのは鍋岡の家族です。普通「定職につけ」とか「銭湯なんてやめろ」「東大にいった意味がない」とか説教しそうなものですが、アルバイトでいる彼を責めることもせず優しく見守る夫婦で、銭湯のアルバイトといった時も顔色一つかえず応援してくれました。
はじめは「頭のネジが抜けてるのか?」なんて思ったものですが、ラスト松本が撃たれてからのあの家族のフォローはお見事です。親父さんの「お風呂屋さんの仕事も結構危ないんですね」なんていう微塵も疑っていない感じは、わが子を信じぬいてるというか善人を信じているというか、温かいものがありました。
理不尽な人生
鍋岡はもちろん出てくる人間は誰も彼も人生に不満を持っています。東は田中から逃れたいと考え、小寺と松本は殺しから足を洗いたいと思っていました。それでもやりたくないことをやらされているのは(程度の差はあれ)みんな同じなのです。
そこからの再生物語こそこの映画の面白さですが、東は最後その勇気が持てずに死んでしまいます。ちょっと変えれば人生は好転するはず、それができた人とできなかった人では大きな差がでてくる、そんな映画に思えてしょうがないです。この映画を見終わった人は松本の「今まで食ったうどんで一番うまかった」という言葉が胸にジーンときて幸せな気分になれること間違いなしでしょう。
評価
★★★★☆:★4つ(なかなかの良作)
スリラーのような内容でありながら見終わるとどこか温かくなるようないい映画だと思います。ぜひご覧ください。