映画スリービルボードの評価
★★★★☆
アカデミー賞作品ということで、ある程度の期待をしてみましたが、しっかりと見ごたえのある作品でした。
アカデミー賞らしい作品で、シンプルな脚本の中で力強い演技と根底にある社会問題をするどく突く作品でした。
映画スリービルボードのあらすじ
ミズーリ州で一人の女性が車を走らせています。
女性の名前はミルドレッド・ヘイズ。
彼女は車ひとつない道を走りながら3つの道路沿いのたて看板(スリービルボード)に注目します。
後日彼女は広告会社を訪れ、そこのオーナーのレッドに広告を出したいといいます。
レッドは町外れの誰も通らないような道に広告を出すことを不思議に思いますが、彼女が前金で5000ドル出すと喜んで広告を出すことに同意しました。
彼女が出したい広告は3枚の広告板(スリービルボード)に「娘はレイプされて焼き殺された」「未だに犯人が捕まらない」「どうして、ウィロビー署長?」というメッセージを載せたいといいました。
ミルドレッドは7ヶ月前に娘のアンジェラヘイズがレイプの後に焼き殺されるという悲惨な事件が起きて、その犯人逮捕ができない警察を批判する形で広告を出したのだった。
ウィロビー署長は町の多くの人から敬愛されており、批判ミルドレッドを名指しで批判する人も多くいた。
特に警察本人はとても憤慨し、レッドの広告社にスリービルボードの広告をはずすように迫るが、レッドは一歩も引かなかった。
特に差別主義者のジェイソン・ディクソンは腹の中で怒りを煮えたぎらせていました。
仕方なく、ウィロビー署長はミルドレッドに直接説得に行くが、彼女は一歩も引かなかった。ウィロビーは自分がすい臓がんで長くないことを伝えますが、彼女はそれを知った上で広告を出していたのでした。
警察署には苦情がとどいましたが、どうしようもありませんでした。
中にはウィロビーを擁護するためにミルドレッドを脅そうとするものもいました。
ディクソンは何としてでも屈服させてやると広告会社社長のレッドを脅迫しました。その後、ミルドレッドの友人であるデニスにマリファナ所持容疑をでっち上げて逮捕し、しかも保釈にも応じませんでした。
ミルドレッドの元夫であるチャーリーは粗野な人物であったが、そんな彼ですらも広告板の設置が引き起こすであろう事態を恐れていた。彼はミルドレッドに「アンジェラが殺される1週間前、あいつは俺と一緒に暮らしたいと言ってきたんだ」と語るのだった。
しかし、彼女はひるむどころか反撃をし、そういった人たちを返り討ちにしてきました。
ある日、歯医者に行くと署長を擁護する歯医者から嫌がらせをうけそうになります。
とっさにドリルを奪い、歯医者のつめをドリルで穴をあけます。
歯医者は訴えるといって、警察署にミルドレッドが呼び出されます。
ウィロビーが直接取調べをし、彼女を挑発するが、のれんに腕押しで動じなかった。
しかし、突然ウィロビーが吐血してしまい、救急車で運ばれてしまう。
自分の死期が近いと悟ったウィロビーはすぐに退院し、家族と過ごすために家に帰宅する。
強気なミルドレッドでしたが、実は事件当日、アンジェラは友人らと遊びに出かけるのに車を貸して欲しいと頼まれたときにアンジェらに「レイプされればいい」と返答してしまったことを後悔していました。
ある日ミルドレッドの元夫チャーリーが尋ねてきました。
彼はミルドレッドよりも若い娘に乗り換えて別居をしていました。
また、ミルドレッドにも暴力を振るっていました。
彼は「アンジェラが殺される1週間前、あいつは俺と一緒に暮らしたいと言ってきたんだ」と語りました。
看板が設置されてから月日がたちました。
ミルドレッドはスリービルボードのお金を中古車を売って作りましたが、その後のお金は用意ができそうにありませんでした。
レッドもさすがに周りからの圧力もあり、お金が用意できない場合はスリービルボードの看板をはずすしかないとミルドレッドに告げます。
落胆するミルドレッドとレッドのもとに秘書が走ってきます。
なんと、送り主不明で誰かが5000ドルを用意して看板の費用にしてくれと送ってきたのです。
そのころ自分の死期が近いと悟ったウィロビーは、退院後に妻と2人の娘と過ごす1日を設け、楽しい思い出を作った後に自殺をしました。
ウィロビーの自殺は多くの人にショックを与えました。
ミルドレッド一家を人殺し同然だと思い込んだ町の人々は、彼女たちに一層陰湿な嫌がらせを行うようになりました。
ついには、ミルドレッドが職場で見知らぬ男性客から恐喝されるに至ります。
ウィロビーの死に憤慨したのはディクソンも同じでした。ディクソンはレッドが経営する広告代理店に押し入り、レッドとそのアシスタントを暴行し、レッドを2階の窓から突き落とします。
ディクソンの一連の暴挙はウィロビーの後任であるアバークロンビー署長に目撃されていました。アバークロンビーは権力を乱用するディクソンを直ちに解雇します。
ウィロビーは死ぬ前にミルドレッドに手紙を書いていました。
手紙には事件を解決できていないことを謝罪することが書かれていました。
その夜スリービルボードに火がつけられます。
必死に火を消すミルドレッドですが、看板は全焼してしまいました。
警察署ではディクソンはウィロビーから届いた最期の手紙を読んでいました。
そこには「お前が犯罪捜査の第一線で活躍したいと願っていると知ってから、何とか助けになってやりたいと思っていた。しかし、病のためにそれも叶わなくなってしまった。お前の欠点はすぐにキレることだ。警察官に最も必要なのは愛だ。そうすれば、もっと良い警察官になれる。ゲイだとバカにする奴がいたら、同性愛差別で逮捕しろ。」
と書いてあります。改心したディクソンはそれまでいい加減にやっていたアンジェラの事件の捜査に本気で取り組もうと決心します。
そのころミルドレッドは警察が腹いせに看板に火をつけたと思い、仕返しに警察署に火炎瓶を投げ込みます。
中にはディクソンがいました。ディクソンは捜査資料を服の中に隠し、燃え盛る炎の中から飛び出します。
人がいると思わなかったミルドレッドはびっくりします。
偶然その場を通りすがったミルドレッドの友人のジェームズはディクソンを救助し、警察にはミルドレッドが放火犯だと察しつつも「彼女は自分と一緒にいた、火事とは関係ない」と証言しました。
ディクソンは入院となりましたが、退院後に酒を飲んでいると後ろの席で男が話していました。彼は以前ミルドレッドの店に現れ恐喝した男でいsた。会話の内容は9か月前に女性をレイプして焼き殺したことを自慢気に語るもので、ディクソンはその男がアンジェラを殺した犯人だと推測し、車のナンバーから住所がアイダホ州であることを確認すると、ひどい暴行を受けながらも相手の皮膚を爪でかきむしり、DNAを採取することに成功します。
しかし、結果的に彼は犯行の時刻は国外にいたことが判明します。
ディクソンとミルドレッドは落胆しますが、ディクソンはその男は事件と関係がなくても、レイプ犯であることは間違いないためアイダホに行くと言うと、ミルトレッドも同行することを決意します。
ミルドレッドは息子に、ディクソンは母親に別れを告げ、アイダホへ向かいます。
ミルドレッドが警察署に放火したのは自分だと告白すると、驚きもせず「あんた以外に誰がいる?」とあっさり返されます。
道中、男を殺すことについてどう思うかについて「道々、決めていこう」と語り車を走らせました。
映画スリービルボードの見どころや疑問を解説
改めて映画というのは素晴らしいなと思います。
スリービルボードは一つの街で起こるレイプ事件を発端とします。
シンプルな設定の中で、力強い人々の生き様が見ていてすばらしい作品だと思います。
うまくいかない世の中、でももがくしかない
みんなそれぞれ暗い部分を抱えて 生きています。娘が殺されたミルドレッド、死期が近い署長、事件を解決できない警察、ミルドレッドのせいでいじめられる息子、レイシストのディクソンなど出てくるみんな不安定な存在ばかりです。
でもそんな彼らが彼らなりにどうにかしようと日常でもがきます。
スリービルボードに広告が掲載されることで、ばらばらな彼らの関係がつながっていきます。
最終的に事件は解決しませんが、やれることはやりきった、そんな感じが印象的です。
看板を燃やしたのは誰か
これは作中に元夫が酔った勢いで燃やしたことを認めています。
彼はミルドレッドを下に見ていますので、彼女がやることなすことに因縁をつけてきます。
スリービルボード自体は因縁はありませんが、弱いものを追い詰めるサディストの心からミルドレッドの邪魔をしています。
5000ドルは誰がなぜ寄付したか
署長が寄付したことを手紙の中で告白しています。
彼自身は事件を解決できないことの罪滅ぼしという意味もあったのでしょうが、世論がミルドレッドの思っている方向へいくことに良くも悪くもおもしろくなかったので、ミルドレッドへのいい意味での皮肉だったのでしょう。
なぜ署長は自殺したのか
自身がすい臓がんで苦しむ姿を他人に見せたくないことと、家族に介護の負担をかけたくないという思いが手紙の中で述べられています。
個人的には署長は差別と偏見のいりまじるこの町の流れを変えたいと思ったのだと思います。
自身が自殺し、メッセージを残すことで悪い風潮のあるこの町に一石を投じたいと思ったのかもしれません。
実際、ミルドレッドとディクソンが結束するいいきっかけにもなりました。
オスカーワイルドの引用とは何か
本作ではオスカーワイルドが多く引用されます。
人間の原罪をするどくつくのがオスカーワイルドです。
たとえばこれ
『善人はこの世で多くの害をなす。彼らがなす最大の害は、人びとを善人と悪人に分けてしまうことだ。』
(オスカー・ワイルド)
本作の登場人物はいろいろな差別をします。
警察官は証拠に基づく捜査はせずに、単に先入観と差別意識で悪人を決定してしまいます。
そういった世界観を体現したのが本作です。
最後に
アカデミー賞に恥じないすばらしい作品です。
ヒューマン作品としてじんわりと感動できます。
ぜひ一度見てください!