ジェイソンブラムのブラムハウス制作のスリラー。一人の女性が狂人化していく様を描いている異色の作品です。
あらすじ
高校生のマギーは母親のエリカの離婚を機にオハイオ州に引っ越してきます。
新しい学校ではアンディ・ホーキンス、ハーレイ、チャズ、ダレルと仲良くなり、ある日みんなでパーティをするためにお酒を買おうとしますが中々うまくいきません。
お店の前で途方に暮れるマギーでしたがふと通りかかったスー・アンという黒人女性がお酒の購入に協力してくれます。喜ぶマギーたちでしたが、結局スー・アンの通報により飲酒がバレてその日は解散した彼らでしたが、翌日またスー・アンはマギーたちに会いに行き、自分の家の地下を好きに使っていいと提案します。自由に騒げる場所が欲しかった彼らは喜んで彼女の提案にのり、そこで何度も集まってパーティをします。一方のスー・アンは何かを企むように彼らの情報を収集し、彼らやその親の写真まで手に入れて調べていました。
ほどなくパーティにも飽きてきたころ、スー・アンがうっとうしくなってきた彼らはスー・アンの家に行くことをやめるようになります。
錯乱するスー・アンでしたが彼女が自身が癌であることを告白するとみんな彼女に同情するようになります。ただ、マギーだけはスー・アンがマギーやアンディの父親のベンと同級生であることを隠していたり、娘がいることを隠していたことを怪しいと思うようになります。
スー・アンの行動には理由がありました。彼女は昔地味な学生でベンに憧れていました。慣れないパーティにも行き、彼に手紙で呼び出されたときには用具室に喜んでいきましたが、実はそれは彼のイタズラでスー・アンは恥をかきます。あれから人間不信になり、情緒不安定になったスー・アンでしたが、恨みは忘れることなく、アンディとその警備会社の名前を見つけたときに復讐を心に決めたのでした。
そんな企みがベンにばれそうになった彼女はさらに情緒不安定になり、道で見かけたかつて自分をいじめたメルセデス(ベンの今の妻)を勢いでひき殺します。また、ベンをたくみに誘いだし彼を薬で眠らせベッドに縛り付けて拷問します。さらにアンディたちを地下に誘い出し、マギーとともに監禁し積年の恨みをはらすのでした。
主要キャスト
マーことスー・アン(オクタヴィア・スペンサー)
マーことスー・アンを演じるのはオクタヴィアスペンサー。
彼女が最も有名になったのは『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』で主要人物の一人を演じアカデミー賞助演女優賞を得たことでしょう。ですので演技力はお墨付き。
そのほかには目立った作品もないのですが、彼女はいわゆる主演で目立つタイプというよりは脇役やチョイ役で出演する”いい人”での起用が多いのです。そんな彼女の異色のホラー、異色の主役がこの作品なのです。
映画を10倍楽しむネタバレ解説
10代のころに受けた心の傷から精神疾患を患うようになり、その病気が暴走することとなるスリラーホラー作品がこのマー(MA) -サイコパスの狂気の地下室-です。オクタヴィアスペンサーの怪演が光る本作はやはりこのマー(スー・アン)の心の闇をしっかりと見通せるかどうかが映画の深みを感じるポイントになるのではないかと思います。ですのでここではマー(スー・アン)に焦点を絞って解説をしていこうと思います。
マー(スー・アン)の心の傷
マー(スー・アン)の心の傷は10代にさかのぼります。彼女はクラス一のイケメンやんちゃボーイであるベンに恋をします。奥手で目立たない彼女ですが、周りはそのバレバレな気持ちを知り彼女をからかうイタズラ計画をたてます。
まずはパーティに誘い、すみっこでいじけている彼女を見て笑い、そして極めつけはベンの名前で用具室に呼び出し、別の男に淫らな行為をさせるということでした。この計画にはベンだけでなく、ベンの友人であったエリカやメルセデスも関与していました。彼女の初恋は甘酸っぱいどころか泥をなめるような経験として彼女の大きなトラウマとなります。
その後彼女がどのように成長したかは描かれていませんでしたが、その後結婚し、ジーニーという子供まで授かります。ただ親になった彼女でしたが傷が癒えることはなくジーニーに対しても病気だと思い込ませ、謎の薬を飲ませる、車いすでの行動を余儀なくさせるなど異常な行動を繰り返すのでした。
マギーたちとの出会い
マーにとってマギーたちとの出会いは偶然でしかありませんでした。彼女はただお客さんの犬を散歩させていただけですし、偶然見たことある警備会社の車のロゴを見て、あの日の記憶がこみあげてきたのでしょう。はじめのビールを買うシーン、あなたはどう見えましたか?
あのときマー(スー・アン)はたしかに彼女らのSNSを検索し、彼女らに執着する片鱗を見せていました。でもあの時には人を殺すつもりなんて全くなかったのではないでしょうか。懐かしい気持ちとあの時にもどって彼らとやり直せる疑似的体験ができるのではないかと思ったのではないでしょうか。
その証拠にマー(スー・アン)の服はみるみる若返っていきます。はじめは中年のおばさんの綺麗とはいいがたい服でしたがそれが、ハーレイが着ているようなヒョウ柄の服を着てみたり、若い子がかぶるような帽子をかぶってみたりと彼女の心はあの時傷つけられたときに戻って改めて友人たちと盛り上がるスー・アンを生き始めたのです。
マー(スー・アン)の部屋にあった切り抜きや合成写真も正直気持ち悪いものではありますが、気持ちとしてはもう一度学生をやり直したいという彼女の純粋ゆえに不気味な願望が現れています。
ただし、それは長くは続きません。なぜなら明らかにマー(スー・アン)はスクリーン上でういていて、場所を貸してくれるいい人からしつこい怪しい奴になっていくのでした。
拒絶による行動の過激化
マー(スー・アン)の心が壊れるきっかけは二度あります。一度目は学生時代大好きだったベンに裏切られたとき、二度目はマギーたちに無視されたときでした。
学生時代を振り返ると、彼女にとってつらかったのはベンではない男のアレを咥えたことではありません。それがトラウマになるのであれば男性不振になるものと思いますが、彼女自身は結婚し子供もいます。ジーニーは人工受精の可能性もありますが、結婚指輪をしていたことからも結婚はしていたものと類推できます。
そのため彼女にとってショックだったのは友人であるベンたちから裏切られたことによるものが大半だと思われます。その彼女がまたその子供たちに拒絶されようとしています。あの頃裏切られた苦しさも蘇り心が暴走します。結果、勢いだけでメルセデスを車でひき殺し、ベンを監禁するまでに至ります。
そんな心の成長過程で受けた傷は何十年も引きずることになる悲しいお話になるのでした。
ネタバレ感想
ブラムハウスの最新作で、日本では劇場未公開の作品ということでDVDでの鑑賞となりました。アメリカでは特段成功したわけでも失敗したわけでもなさそうな作品のようです。
実際、主演のオクタヴィア・スペンサー以外には目立つ役もいないですし、彼女の成り行きがメインとなる作品となりました。とは言ったものの、学生時代に受けた心の傷で友人たちに仕返しをするというシナリオはシンプルなだけに壮大なストーリーやどんでん返しを期待した人には残念な作品となったかもしれません。
ただ、やはりマーの演技は最高ですし、見る価値は十分あるのではないかと思います。個人的にはラストが少し尻すぼみしてしまったかなという印象。
拷問も中途半端だったし、もう少しじっくりといたぶってもよかったのではないでしょうか。
あとはラストですよね、ベンに寄り添いながらのラストは彼への執着を感じますが、であればもう少しベンへの心残りを丁寧に描いてほしかったかなと。ブラムはマーをもっと狂人のように描きたかったとのことですが、テイト・テイラー監督がマーに人格を与えてこの作品になったとのこと。
たしかにオクタヴィア・スペンサーを起用したらやはり濃厚な人物像を描きたくなりますが、ホラー映画ファンはそこは求めていないよな。。。でもやはり演技力ある人の演技はそれだけで一見の価値があるので、それまで「脇役でいい人」を演じ続けていた芸歴のスペンサーが「主役でヤバイ人」を演じる中々ないシーンが見れることを噛みしめながら見ればまた違った映画の楽しみが見えてくる作品であります。